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100メートル予選
アップ場に到着すると他校の選手もいるので思っていたよりも人が多い。我が校のジャージが固まってるところへと向かい、いつも通り徐々に体を温める。柔軟をしていると萌先輩が寄ってきた。
萌「こうちゃん、1組やからどうするかわからんって言ってたようだけど、最初は女子からやから参考になるかもしれないよ」
「あ、なるほど…ありがとうございます」
萌「へへー、萌いい事言ったでしょ?」
「はい」
萌「でもねー、そう言ったのは可奈なんだよぉ。可奈こうちゃんと話した事ないって言うから萌が代わりに言いにきてあげたんだよぉ。感謝しろよー」
(なんか一言多いんだよなぁこの人)
「ありがとうって伝えといてください」
萌「やぁだよ、面倒くさいもん…あとで自分で言っときぃ」
「あ、はい」
(この人も面倒くさいな)
萌「可奈と会話するきっかけにもなるでしょ?」
萌先輩はいい人なんだろう。天然な能天気なようであるが、たまに良いこと言う。
要「まぁ、気楽にやればいい」
(たしかに俺の走る1組は有力な選手はいないようだが…)
大会ということだけあって適度な緊張感がある。上位4人とそれを除くタイムの上位3人の計7人が県大会への権利を獲得するのだから他校の選手もピリピリしている。
要と大和先輩と源太は前回の成績や持ちタイムですでに県大会参加は確定している。しかし彼らはタイムにこだわっているので、手を抜くことなくこの大会も真剣に取り組んできた。
女子ではもちろん萌先輩と可奈先輩は 100メートル、200メートルともに次回の近畿大会まで出場は確定している。ミーティングの時顧問から
顧問「この市大会は、新入生は自分がどの位置にいるのかを確認することと、上へ行くために実績を作る大会、2、3年生は成長と課題を確認するのと、県大会出場を目指す大会」
と言っていた。この市大会は部員にとって大事な大会と言えるのかもしれない。部の緊張感もこういうところからきている。が、他校の選手たちはそうでもないようだ。
源太「おい、あそこでまた先輩たちを写真撮ってるぞ」
要「ん?どこ?マジか!」
本会場ではもちろんのことアップ場でも写真、ビデオ撮影は禁止されている。ジャージ姿の男子4人が萌先輩たちの方に向かってスマホを構えている。撮影しているのは明らかだ。
要「あいつら…注意してくるわ!」
要は立ち上がりそこへと歩き出した。俺もそれに続いた。要が男子たちに声をかける寸前、俺たちを追い越し男子たちの前に立ちはだかった人がいた。菜菜香だ。
菜菜香「すみません!撮影はやめてもらえますか?」
菜菜香は強い口調で言った。俺も要も意表をつかれ驚きで一瞬固まった。スマホを構えていた男子たちも同じく固まってる。が、そのうちのひとりが
男子1「何?お前?ケチくさいこと言うなよ」
そして他の男子もそれに同調する。
男子2「いい子ぶるなよ!」
男子3「高く売れるんだから細かいこと言うなよ」
菜菜香「迷惑です。出て行って下さい」
菜菜香も負けてはいない。マネージャーとしての責任感なのか、こういうのを許せない性格なのかは分からないが気持ちは強い。
男子1「おいおい…女だからって調子乗るなよ」
男子4「よく見ると可愛いやん。一緒に撮影しない?」
勝手なこと言っている。
要「お前らいい加減にせぃよ!」
要は菜菜香が言われてることに我慢出来なくなったようだ。
男子1「あー?何やお前…」
男子2「あ!こいつ朝から女子にキャーキャー言われてたやつやん」
男子1「だから調子のって出てきたんやな」
要「あー?お前らうちのマネージャーに何いちゃもんつけとんの?」
菜菜香「要先輩、大丈夫ですので走るのに集中しといて下さい」
男子4「ハハハ、こいつ女の子に守られてるぞ」
(こいつら完全にバカにしてるな)
要「なんやと!」
男子1「おい、クソ女!どけ!」
菜菜香「どきません!」
男子2「生意気な女やのー」
男子1「ケガすんぞ!コラ」
明らかにガラの悪い感じがにじみ出ている。そして男子1が菜菜香の肩をぐっとつかみ横へと追いやろうとした。
菜菜香「痛っ」
俺、要「おい!」
菜菜香は腕をつかまれたまま降り払おうとしたが男の手は離れない。
菜菜香「要先輩ダメです!出場停止になります」
周りもこの状況に気付いて騒ついている。やじ馬も集まりつつある。それくらい大きな声で男子たちは騒いでいるということだろう。
「さっさと離せ…」
俺が言いかけたその時、その男子1の手首あたりをグッと鷲づかみにして後ろから男の人が現れた。
後ろの男「女の子になに手あげてん?こら?」
男子1「ぐっ、なんやと…」
後ろの男「早よ離さなんかい!」
後ろから現れた男はつかんだ手首にさらに力をこめた。
男子1「痛たたた」
男子1の手は菜菜香の肩から強引にはがされた。
そこへ騒ぎに気付いた萌先輩と可奈先輩と数人の部員がやってきた。
萌「どうしたん?」
菜菜香「実は…」
菜菜香は萌にいきさつを説明している。
男子1「痛いやんけ!バカ力でつかみやがって…」
後ろの男「あ?なに?」
後ろの男は数十センチまで寄りにらみつけた。その迫力に男子1はひるんだ。後ろの男の仲間も3人現れた。
後ろの男の仲間「おい、しんちゃんこいつらやってまうんかー?」
後ろの男(しんちゃん)「そやなぁ、どうしよっか?」
後ろの男は頭部側面は刈り上げ、頭頂部を後ろで髪を束ねている。後ろの男の仲間は茶髪、その他2人も髪をビシッと固めたり、短髪でピアスしたりとジャージを着てはいるが見るからに悪そうな感じの高校生だ。
明らかに盗撮男子たちとは悪さの格が違う。誰が見てもその区別はついた。ジャージの背には
「ROKUGAKU」
とプリントされているのが見える。
男子2「お、おい…こいつら六甲学園ちゃうんか」
男子3「ぐっ、マジか…やばいぞ」
男子4「こ、殺されるぞ」
(こいつらもガラ悪い。けど、ナナちゃんを助けてくれた?)
しんちゃんの仲間「あなたたち、うちともめる気なの?」
(なんでこいつ女の子言葉なんだ?)
男子2「い、いや、そんな気は…」
男子1「あんたら、なぜ邪魔をするんだ…」
しんちゃんの仲間「はぁ?悪者退治じゃボケ!
男子1「くっ…おい、行くぞ」
男子1は他の仲間とその場から離れようとした。六甲学園ともめるのは自爆行為だと悟ったようだ。そこに菜菜香が
菜菜香「あんたたち、さっき撮った画像消してよ!」
すかさず、しんちゃんが
しんちゃん「おい!待て!お前らのスマホ出せ!」
男子2「な、なんで…」
しんちゃんの仲間「ええから、早よ出さんかぃコラ!」
男子3「スマホは…ちょっと…」
しんちゃんの仲間「ん?学校も名前も知ってるから、これからずーっとうちの高校にお前らターゲットになってもかまへんねんやったら出さんでもえーよ?」
しんちゃんの仲間「まぁ、兄ちゃんら、これから外出する時は地獄みんぞ?」
男子1「わ、わかった…。出すよ、出せばいいやろ?」
しんちゃんの仲間「おー、初めからそういうふうに素直に出せばいいのによー」
しんちゃん「おい、マサ!消せ!」
マサ「はいよー」
男子2「け、消すのか?」
マサ「当然でしょ?消さなかったら警察に捕まるわよあんたたち…」
マサはスマホを4つ手に持つと順番にサクサクと何やら作業を開始し出した。かなり慣れた手つきで手が動いている。
マサ「それにしてもあんたたちいいスマホ持ってるわね」
しんちゃん「まだか?マサ?」
マサ「しんちゃんせっかちなんだから…もう少し待ってよ」
そして…
マサ「ほい、終わったよ」
盗撮男子たちは慌ててスマホを受け取った。そしてすぐにスマホを確認した。
男子2「あ、あれ…全部消えてる」
男子4「うわっ、関係無いものまで消えてる!」
男子1「チッ」
男子3「思い出まで消えて…」
マサ「あ?何か文句あるの?いちいち確認するわけ無いやん。画像全部消去するに決まってるやん?面倒くさいし…バカなのあなたたち」
しんちゃん「お前らさっさと出て行かんかい!目障りじゃボケ!」
盗撮男子たちはトボトボと去って行った。
菜菜香「あ、あのー、ありがとうございました。とても助かりました」
しんちゃん「い、いや、うん、まぁ当然の事をし、したまでですよ」
(何緊張してるんだ?あ!まさか…女子に慣れていないのでは?)
可奈「私たちの為に本当にありがとうございます」
しんちゃんの仲間「いえいえ、お、俺らもそういうのゆ、許せないんで…」
(なんや?こいつら、笑いそうになるわ)
要「お前、真か?」
しんちゃん(真)「おう要!久しぶりやのぅ」
(要の知り合いか)
「知り合い?」
要「お前も知っとるやろ?」
真「康二!久しぶり!」
真の知り合い「ん?しんちゃんの言ってたやつらか?」
真「おう!ナオ、そうや」
知り合い(ナオ)「へぇ、あんたらが…そっか」
(ん?全く意味がわからんな)
萌「君達ありがとうね!ほんま助かったよ。で、要くんたちアップ急いでよ!」
ナオ「い、いえ…めっちゃ可愛い…」
真「お、おう…可愛い過ぎる」
マサ「ふん、興味ないわ」
ユキオ「あかん…惚れた」
(ハハ、面白いなこいつら)
真「で、康二、お前、俺のこと思い出してないんか?」
(全くわからない)
「んー………?…知らん!」
真「お前最悪やのー」
要「ほんまに思い出さんのか?…」
「いや、知らん」
そこへ
萌「あんたら!早く来い!」
「はい、すぐいきまーす!」
要「 100メートルのアップ急ぐのでまた後で話そう」
真「おう、わかった」
菜菜香「皆さんは何に出られるのですか?」
真「あ、俺たち陸上部員4人しかいなくて、で、全員 100メートルと100×4の400メートルリレーに出る」
菜菜香「じゃあ、皆さんもアップしないと…応援してますのでお互い頑張りましょうね!」
真、ナオ、ユキオ「わっかりました!」
ナオ「俺たちめっちゃ頑張ります!」
ユキオ「うおおお!やる気がみなぎってきた!」
(アホかこいつら)
菜菜香「では失礼します。先輩たち行きますよ!」
こうして俺たちは再びアップへ戻った。いよいよ予選が始まる。
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