100メートル予選 結果

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100メートル予選 結果

 スタンドの青海高校の待機場所では萌先輩と可奈先輩が予選を終え、男子 100メートル予選を見るために座っていた。藤代先輩と菜菜香の2人のマネージャーも一緒に観戦だ。 萌「そろそろ始まるね」 藤代「あぁ…1組は姫野か。問題はスタートだな」 萌「スターティングブロックも問題なさそうだし、ほんとスタートがタイミング取れるか…やね」 アナウンス『Set』 菜菜香「頑張って…」 可奈「…」  『バーン!』 菜菜香「あ……」 藤代「大幅に出遅れたな…」 可奈「出遅れすぎ…」  俺はスタンドから見てもかなり出遅れた。 藤代「あのバカ…」 菜菜香「え、やばいんじゃ…」 萌「…いや、大丈夫!」  俺は全体から2メートル近く他の選手から離された。 萌「ここからトップまでのスピードはレベルアップしてる。あとは冷静にフォームを崩さずに…」 菜菜香「あ!差が縮まる!」 萌「そう、それでいい」 藤代「へぇ…」  俺は20から30メートル付近で半分ほど距離を縮めた。そしてさらに加速している。フォームも乱れていない。 菜菜香「あ、とらえた」  50メートル付近で他の選手たちに並ぶ。 萌「もういけるやろ」 可奈「だな」  俺と他の選手とのスピードの差は明らかだった。 ギャラリー「おい、見ろよ…すんげえ加速してるやついるぞ」 ギャラリー「誰だ?青海のユニホームだが、知らんぞ」  俺は一気に全員から抜けてさらに引き離す。どんどん差が開いていく。 菜菜香「すごい…」 藤代「そうだが…バカだ!」 可奈「だな」  そしてゴール!  レースは俺が2位以下を7〜8メートルの大差をつけての圧勝の1位だった。もちろん一次予選通過だ。走り終わった俺は、他の選手も見たいので急いでスタンドへ駆け上がった。  我が校の決められた場所では、先輩たちと一年生が お祝いの言葉をかけてくれた。正直に嬉しかった。そしてホッとした。が、すぐに藤代先輩に呼ばれた。 藤代「あんたさぁ、どんだけ出遅れてるの?」 「いや、自分が思ってたタイミングよりだいぶズレてたようで…」 藤代「ズレすぎ!」  藤代先輩は俺の言葉に厳しい言葉を被せてきた。 「すいません…」 藤代「もっと修正が必要なようね。市大会の予選だからなんとかなったものの、関西大会ならアウトだったからね!よーく反省して!」 「はい」 (すごく言うじゃん…)  そこへ萌先輩がやってきた。 萌「こうちゃん予選通過おめでとう!でも、ふふ…出遅れひどかったね」  萌先輩は思い出してケラケラと笑っている。藤代先輩の横でさらに追い討ちをかけるのかと思わせるほどのタイミングだ。 藤代「萌…笑い事じゃないよ」 萌「あぁごめーん…でも、あそこまでの出遅れ見たことあるー?」 (ダメだ、この人には笑いに変えられる) 藤代「ない…ほんとにひどかった」 萌「やんね、やんねー、はぁ…面白かったぁ」 (面白いだけだろ…) 萌「ねーねー…こうちゃん何考えてたの〜?どうしたらあんなに出遅れるん?」 (この人は…しつこい) 「俺も気にしてんすから、あんまりいじらないで下さい…」 萌「うふふ…い、や、だ」 (やっぱりな) 萌「こんな面白いのに…」 (だろうね…) 菜菜香「あのー…次、先輩走りますよー」 「あ、観る観るー!」 (これは萌先輩から逃れるチャンスだ…ナナちゃんナイス!)  俺は前方の見やすい場所へと移動した。 萌「あ!逃げよった」  萌先輩の言葉は聞こえていたが、あえて聞こえないふりをした。ちょうど源太が走るところだった。 『バーン!』  相変わらずスタートダッシュで抜け出した。そのまま問題なく走る。80メートル付近で振り返る余裕を持ち、あとは流してゴール。難なく1位だ。 藤代「あんたもあのくらい余裕持って走らないとダメよ」 「はい…」  そして次々と有力選手が出てくる。要も山口も楽々一次予選通過を決めた。ライバルの黄志学園の西と橋本も六甲学園の4人も通過を決めている。  その中でも俺が最も驚かされたのは六甲学園の猪原真だ。先程、盗撮から助けてくれたヤンキー校の選手だが、実力を出さずに圧勝だった。まだ実力も底も見えないが、強さがハンパないのは分かる。 藤代「次の予選は午後からだから、早めに食事済ませててね」  その言葉に100メートル走に出場している全選手がうなづいた。出場の全選手が予選通過なのでここからは我が校同士が対戦することも出てくるようだ。そして俺は次に源太と対戦する。  俺に一方的に敵視している源太。彼も後半が得意なタイプだが高校へ入ってからは、スタートに重点をおき弱点は無くなったようだ。彼とは練習でも合わせたことは無い。真剣勝負以外は合わせないという彼の強い要望だったからだ。  俺は源太との対戦はさほど意識して無いのだが、彼は俺への中学の時のリベンジを果たしたく、闘志むき出しでこの大会に臨んでいる。まぁ、俺にしては迷惑な話なのだが…  要と早めの弁当を食べながら話をしていると色々と情報を得たことがある。  先ずは源太の事だ。俺が入部するまでちょいちょい「姫野はいつ入部する?」と口癖のように言っていたらしい。 要「源太はこの1年間で最も実力をつけたんじゃないかと思うくらい強くなってる。今年は関西大会に出れるくらいの力はある。お前用心していかないと…」 「正直、俺と源太とどっちが勝つと思う?」 要「なんやその、どストレートな質問は!」 「ハハ…で?」 要「お前がちゃんと走れば…お前だろうよ。まだお前の実力も部のほとんどの人は知らんやろうし、お前のMAXを知ってるのは俺と紫音くらいやろうからな」 「俺のMAX?俺は今が全力なんだけど?」 要「だろうね…だからお前は面白いんや」 (こいつの言ってる事矛盾してね?) 「よぅわからんけど…まぁいい、もう一つ質問!六甲学園の真のことが思い出せない。教えてくれん?」 要「お前、ほんまに忘れたんかー?小学校と中学校とサッカーでよく対戦してたやん。小学校の時の試合でお前と真が口論から殴り合いになって2人とも退場処分になったやん。で、そっから話すようになった腐れ縁やん。中学の時は何回か一緒に遊んだやろ?」 (全く記憶にございません)  が、俺はこの事は思い出せないのは不自然になってしまうと判断して話を合わせる事にした。 「あー…なんとなく覚えてる」 要「なんとなくって…まぁええわ」 「でもなんでサッカーやめて陸上してんだろう?」 要「そやろ!俺もそれ気になって 100メートル予選の出番待ってる間に聞いてみた」 「で?」 要「真は小学生の頃、全国でも知られてるような強豪チームやったやん?中学校でもそこそこのサッカー強豪校やった。高校も当然のようにサッカー部の強い学校へ入学した。が、同時にサッカーに限界も感じ始めていた。レギュラーになれるかもしれないが、上には上がいる。競技人口の多いサッカーでこれ以上続けて何かあるのか?っと思い始めてた」 「でもそこからどう陸上と繋がるんだ?」 要「うん、真がサッカーに興味が薄れていた頃に、俺たち3人が陸上部へ入ったと知ったようだ。特に足の速さで試合中いつも競っていた康二が陸上へ行ったのは刺激になったようやわ」 「俺がそうさせた?」 要「いや、原因のひとつや。そもそもお前はサッカーの技術全然あかんのによくサッカーやっていたなと感心してたらしいぞ」 「うっさいわ!ほっとけ」 要「そして俺のことはサッカーの名門校へ進学したと思っていたようだ。ほら、俺って上手いから…」 「え!お前って上手かった?」 要「めっちゃ上手いし!お前も知ってるはずや」 「いや、全然知らん!」 要「嘘つけ!」 「全く知らん!」 紫音「おいおい、何騒いでるんや?うるさいぞ!」  紫音が競技を終えスタンドへ戻ってきた。 要「おー紫音、俺サッカー上手かったよなぁ?」 紫音「はい?なんやその質問…」 要「いやぁ、こいつが知らんって言うから…」 「だから、上手いのは知らん!」 要「ほら、こんなん言うねん。紫音はどう思う?」 紫音「まぁ、要は技術は高いよ。ドリブルもパスもシュートも強豪校と渡り合えるくらいの技術は持ってた」 要「うん♪うん♪」 紫音「だが、上手いがゆえに個人技に頼ってボールを奪われたり、得点チャンスなのにパスを出さないとかいうマイナス面もあったのは事実。なので上手いかどうかは分からない」 要「おいおい…」 「ま、どっちでもいいけど…じゃあ話を戻すけど、真が陸上始めたのは俺たちがきっかけってこと?」 要「うん、そう…お前のスピード対決もまだやりたかったんとちゃうか?いつもお前と小競り合いして揉めてたけど、似たもの同士、いつの間にか仲良しになってたから良きライバルやしなぁ」 「それが理由なん?」 紫音「まぁ本心はわからない…だろうが」  まぁ俺的には、なんとなく分かった気もするから少しだけスッキリした。そして菜菜香から声がかかった。   菜菜香「100メートルの2次予選に出場の人はアップ場へ移動して下さーい」 要「お!そろそろだな」 「おぅ!」  俺と要は静かに立ち上がった。  
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