登校〜親友たち

1/1
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/31ページ

登校〜親友たち

なんだかんだあったが、時間に余裕を残して学校へ到着した。俺にとって初登校であるが、高校生の俺には日常的な登校である。上履きと履き替えているとクラスメイトらしき男子から 「おっす」 と声をかけてきたので 「お、おっす」 と返した。何ら疑っていない様子だったのでホッとした。 教室は3階。リズム良く階段を上がる。 (階段てこんなに楽だったっけ) と思うほど軽やかに足が動く。 2ーSが俺のクラスだ。頭の中にある不思議な記憶がそう言っている。階段から廊下へ出ると2ーSと書いた文字が見えてきた。廊下を緊張しながら歩いたが声をかけてくる人もいなく無事に教室へ到着。 俺の席は窓側のいちばん後ろだ。 (学園モノのドラマだとクラスの不良がだいたい座ってる席だな) 少しおかしな事を考えながら席に着いてカバンをおろす。 前の席の女子が俺に気づき 女子「おはよー」 と声をかけてきた。 「お、おはよー」 と、なるべく自然にあいさつを返して椅子に座った。 やっと落ち着いた気がした。机にうつ伏せになってリラックスしようとした時 「おっはよー!!」 と大きな声とともにドカドカと教室に入ってきた。ドカドカという足音が近づいてきたと思ったその瞬間 パチーン! と背中を叩かれた。 「いっ、、、」 (痛い) 声が出ないくらいびっくりした。 (誰?) 振り向くと男子生徒が2人立っていた。1人は笑っている。 (叩いたのはこいつだな) そう思ったが、何故か見慣れた顔だった。いや、見慣れたというよりは記憶にある顔だ。キリッとした顔つきで目力のある今風のチャラい感じだ。髪もやや茶髪 でよく日焼けしている。  こいつは氷室要(ひむろかなめ)だ。 もう一方の男子生徒が 「お前、手加減しろよ!」 と呆れ顔で話す。もうひとりの生徒はサラサラの長髪で後ろで髪を束ねている。キレイな顔立ちをしている。  こいつは黒田紫音(くろだしおん)だ。 この2人は俺の小学校の頃からの大親友で何をするにもいつも一緒いる。 要「目覚めたかー?」  笑いながら言ってくる。 紫音「覚めるどころか逆に気絶するわ!」 俺がポカーンと見ていると、 要「あ、お前また夜遅くまでゲームしてたやろ?」 と突っ込んできた。俺は 「違うよ!」 と言い、背中がジンジンしてきたので両手で押さえた。 紫音「お前ほんといつも朝はテンション低いよなぁ、、、それに比べてこいつは、、、」 と要の方をチラッと見た。 要「ん?」 自分の事だと分かっていない。 紫音「でもさっき、すずちゃんが言ってたように康二いつもよりボーッとしてる気もする」 要「頼りないお兄ちゃんを学校まで連れてきたって言ってたぞー」 ニヤニヤしてる。 (あいつは、、、) 「う、うるさいわ!」 要「すずちゃんはしっかりしてるのに、、、それに比べて、、、」 そして紫音が話し出した。 紫音「そうそう、康二にうちのキャプテンからの伝言伝えないと、、、」 要「おーそれや」 「ん?何?」 紫音「今日から一年生が正式入部する。スポーツ特別クラスに入ってる以上、康二も放課後必ず参加して欲しいとの事だ。」 要「俺たちに絶対連れて来いって言ってた」 「そ、そうなんだ」 (なんか面倒くさそう) 紫音「俺は別にどっちでもかまわんよ。康二の気持ちも分かるし、強要されるもんでも無いし、、、」 (気持ちって?) 要「まぁ1年間苦しんでまだ吹っ切れてないようだし俺たちがうまいこと言っておくよ!」 (苦しむ?) 要「まだリレーのこと責任感じてるんだろ?」 (何の事だかわからないが適当に合わせておかないと怪しまれる) 「う、うん。まぁ、、、」 要「あれは仕方ないよ。康二がバトン落としたのはリレーに慣れてなかったし、練習不足のチームの責任だからひとりで責任感じなくていいと思う。」 「、、、分かってる」 (そうなのか) 紫音「康二はこう見えて責任感だけは人一倍強いもんなぁ」 要「たしかに、、、」 (この俺って責任感強いんだ) 紫音「でも、お前が本当に気にしてるのは翔太の事だろ?」 (翔太、、、?) 「う、うん」 怪しまれないよう適当に返事をした。そして少し考え記憶を辿る。 (思い出した!たしか中学の時の陸上部のキャプテン。で、リレーのメンバーだ。) 紫音「あいつなら東京の高校でもきっと頑張ってるよ!」 (あぁ、親との約束で、県大会のリレーで優勝しなかったらこの高校に入るのは断念して、親の仕事上の都合で東京へ行く事という理由で引っ越したんだ。) 「もう陸上する気もなくなったんじゃないかな、、、」 要「あぁもう暗い!暗い!」 紫音「お前が始めた話だろうが!」 要「え?あ!そっか」 紫音「ほんま、、、こいつは、、、」 紫音は呆れ顔だ。 (今は部活とかする気分ではない。というか陸上部なんて走ってばかりでしんどいじゃん。しかも俺おっさんだし、、、それどころではないから正直言って放課後行きたくないなぁ。でも俺が行かなかったらこいつら陸上部のキャプテンに叱られるんだろうなぁ、、、それはちょっと可哀想かなぁ) 「い、行くよ!顔出すだけだからな」 (顔だけ出してさっさと帰ろう!) 紫音、要「え!?」  2人はとんでもなくびっくりしている様子だ。 紫音「あれだけ拒否ってたのにどうした?」  少し間を置いて 要「まぁまぁ」  俺に肩を組んできながら 要「康二も前向きになってきたって事よ!」 紫音「信じられん!」 要「こらっ!友人を信じろ紫音」  紫音は5秒ほど考え 紫音「わかった、、、信じる。」 と言った。そしてすぐに朝のチャイムが鳴ってふたりは席に向かった。 授業が始まった。科目は英語。 俺は若い時、色んな海外のお客さんと接するために英語、フランス語、少しの中国語は話せるし聞き取れる。簡単なはずなのに黒板に文字を書いたり文法にしたりとかえってややこしく感じる。 (授業ってほんと退屈だな。自分の高校の時はこんな感じだったっけ?) でも前の俺の記憶は出てこない。不思議な感じだと思いながらもやっとひと息つき落ち着いた。そして今把握している事を整理してみる。 『この神戸青海高校は公立校では珍しくスポーツ特別クラスがある。この高校では男子陸上部と女子陸上部、女子サッカー部、女子ソフトボール部が強くスポーツクラスもこれらの部のみで成り立っている。  なので俺のいる2年S組は男子陸上部が7人、あとは23人の女子生徒の計30人だ。スポーツ特別クラスなので全員強化部に所属しているはずなのだが俺だけが訳あって部活動に参加していない。陸上部の休部員扱いになっている。 クラスの中にはさっきの親友である氷室要と黒田紫音もいる。  氷室要は運動センスに長けていて何をやらせてもトップの実力を発揮する。高校でもサッカーで期待されるほどの実力があったが俺と紫音が陸上するというのでこいつも陸上部に入部して今では部の柱にもなる存在だという。性格は真っ直ぐだが勉強は苦手。勉強に関しては俺と要は最悪なようだ。  黒田紫音はとにかく頭が切れて天才。学年でもトップの成績でスポーツ部がバカにされないのはこいつのおかげなんだとみんなが言っている。スポーツもそこそここなして顔立ちも良く女子の人気No. 1だ。俺と要の世話係みたいなやつだ。性格も穏やかでいつも冷静だ。要はもっと熱くなれってよく言っている。  他に高岡紗里(たかおかさり)は女子サッカー部で女子ではあるが、小学校から中学校と俺たち3人とずっと同じサッカーチームでずっと一緒につるんでいた。見た目は大人しそうな女子だが中身は肉食男子だ。この学校へはサッカーの推薦で次期エースとして期待されて入学した。  あとは吉川源太(よしかわげんた)は同じ県出身の陸上部で中学の時に俺に100メートル走で負け勝手に俺をライバル視しているらしい。今もそうだがよくこちらを睨んでる気がする。  女子陸上部の赤嶺くらら(あかみねくらら)と平井美穂(ひらいみほ)は関東出身で同じクラスになってから話すようになった。2人とも真面目で陸上ひと筋って感じだ。 ちなみに強化クラブはどのクラブも全国大会まで出場するほどの実力がある。陸上部もそうである。』  部活で分かっているのはこのくらいだ。 親友の氷室要と黒田紫音は見た目も良く女子に人気がある。学校全体が7対3の割合で女子の方が圧倒的に多いのもそうなっている原因かもしれない。  そして時間が経ち授業はまもなくチャイムが鳴れば終わる。今日は午前で終わりだ。そして俺は弁当を持ってきていない事に気づいた。 (そうだ!これはチャンスかもしれない。昼ご飯食べてないという理由で顔だけ出して、頃合いを見てさっさと帰ろう。せっかくの素晴らしい高校生活は泥臭くしんどい部活じゃなく、楽で好きな事できる帰宅部で思う存分青春しなきゃ!) キーン♪コーンカーン♪ 今日の授業終わりのチャイムが鳴った。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!