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陸上部初日
学校の最寄駅で下車した俺は徒歩で学校へと向かっていた。
(あぁ、ここ昨日の朝、萌先輩が自転車でぶつかった場所だ)
そう思い出しながら歩いていた。すると停止している自転車にまたがりながらキョロキョロしている人物がいた。
(あ!昨日萌先輩にぶつかっていったやつだ)
少し小太りのやや茶髪の短髪で色黒で薄い色のついたメガネをしているその体型と顔は昨日の事なのでまだ鮮明に残っている。昨日と違う点は、乗っている自転車は昨日のロードバイクみたいな自転車から今日は前カゴのついたいわゆるママチャリに変わっていたという事くらいだ。
そしてサラリーマンの服装をしてカバンも持ってはいるが誰が見てもじっとしてる様子から不審者にしか見えない。
(このおっさん何してんやろ?)
そう思いながらも特に何をするわけでもないのでその場を通過して学校へと急いだ。
そろそろ校門が見えてきた。2日目ともなれば昨日とは気の持ちようが違い緊張感は無い。すると俺の視界に黒の高級車が入った。有名なドイツ製の高級車だ。その車は校門手前30メートルほどのところに停車して運転手が降りてきた。
(あ!萌先輩の家の運転手さんだ…)
そう思い出した。運転手は後部座席のドアを開けた。すると萌先輩が降りてきた。
(やっぱり…)
俺はあいさつをしようと車に近づいた。萌先輩が俺にはまだ気づかず運転手さんへ言葉を発していた。
萌先輩「近すぎるって…もっと離れた場所に停めてよー!」
運転手「いえ、奥様に校門前って言われてますので…」
萌先輩「ママには校門前で降ろしたって言えばいいやんかー」
運転手「それはできません。信用にも関わる事なので…」
萌「ふーん…まぁいいわぁ、ありがと!」
運転手「行ってらっしゃいませ」
運転手はそう言うと車の運転席に乗り込んだ。萌先輩は振り向く事なく校門へと向かう。そして歩く先にいる俺に気づいたのであいさつをした。
「おはようございます!」
萌先輩「あ!こうちゃん!おはよう…まさか、見てた?」
「あ!見てしまいました…すいません」
萌先輩「いいねんいいねん、ほんま融通きかへん運転手やわ。真面目すぎー、明日から自転車で来てやるー!」
「真面目だから家の人は信頼して先輩を任せれるんだと思いますよ」
萌先輩「たしかにそうやけど…こうちゃんも真面目すぎー!」
「あ!すいません」
萌先輩「もっと、こう…適当でいいんよ」
「は、はぁ…」
(言ってる意味が良く分からないがきっと硬すぎるってことなんだろうなぁ)
萌先輩「思春期なんだから大人ぶらなくていいの!」
「え!あー」
そして俺は突如昨日の夢を思い出した。
(なぜ今思い出す?)
萌先輩「ん?どうしたの?顔赤いよ?体調悪いんか?」
「いえ、体調は万全です」
(まずい)
萌先輩「じゃあ照れてる?」
「照れてません!」
萌先輩「なーんだ…違うのかー残念」
(なんなんだこの人?)
そして萌先輩は続けて
萌先輩「じゃあぁ…エッチな想像でもしてたんかー?」
萌先輩はニヤけながら悪そうな顔しながら言った。
「え!?い、いや、そ、そんな訳ない…でしょ!」
突然の核心に迫られあからさまに慌てふためいてしまった。
萌先輩「えー!図星ー!?」
「ち、違いますって」
萌先輩「誰の想像ー?もしかしてエッチな夢でも見たか?」
(エスパーかこの人は…)
「だから、ちがいます!」
そう言うのが精一杯というか、そう言うしかなかった。あの悪そうな笑顔で言われたらよけいに焦る。
萌先輩「うふふ、まぁいいや。でもこうちゃんって大人みたいな雰囲気あるね!標準語っぽい話し方だし…」
ギクッ!
(するどい!)
「ま、まぁ…あれですよ…あれ…緊張したら、こ、こんな感じになるんです」
萌先輩「うふふ、やっぱり面白い子やな、あんたは」
「へっ?」
萌先輩「じゃあまた放課後部活でねー」
「あ、はい。失礼します」
萌先輩「だから、かしこまりすぎー…」
萌先輩は笑いながら3年のロッカーの方へと歩いて行った。が、また振り返り
萌先輩「夢のことまた詳しく教えてね!」
と言葉を残して姿が見えなくなった。
(夢のことはバレてしまったかもしれないが、歳の事はバレてないよな)
少し不安になったが萌先輩が笑いながら行ったのでとりあえずこの場から解放された。
(萌先輩って変なことは鋭いなぁ)
そして俺は変なところに感心した。
放課後になり正式な入部届を顧問に提出した後、俺は部室へと向かった。部室にはもう要と紫音が着替えて俺を待っていた。
要「おっそ!早よ着替えやぁ」
「おう、顧問がなかなか見つからなくて…」
そして俺は着替えながら話を続けた。
「そうそう、萌先輩ってお金持ちなん?高級車に乗って運転手付きで登校してたから…」
要「なんやお前知らへんの?お前はほんま無知やなぁ!あの人は芦屋に住んでるお金持ちのお嬢様やぞ!」
「へぇー、そうは見えないよなー」
紫音「全国各地にホテル経営してる伊集院グループのお嬢様やん。萌先輩も 100メートル全国3位の美女アスリートとして有名人やし、雑誌にも何回か乗ったぞ!」
要「へぇホテル経営してるんや」
(お前も知らんやんけ!でも萌先輩の自由気ままな性格が分かる気もする)
紫音「見た目は芸能人並みに綺麗やし、陸上は全国トップクラスの実力やから注目されるのは当然やけどな」
「へぇそうなんだ…」
紫音「あの人のファンは学校にもいっぱいいるぞ。お前が今まで知らんのが不思議やわ」
要「おい!そろそろ行こか」
俺、紫音「おう!」
こうして俺たち3人は部室を後にしグランドへと向かった。グランドには1年生と2年生がもう揃っていた。マネージャーもいる。ナナちゃんもいる。昨日素性を知ったのでいとおしく思える。俺がナナちゃんへと視線が向いてるのを察知して紫音が俺に声をかける。
紫音「お前のお目当ての菜菜香ちゃんもおるやん」
(なんだこいつ!鋭い!)
「あほ!ちゃうわ」
俺はまぁまぁの関西弁で返した。
紫音「ふーん…まぁええけど…」
要「お前、関西弁が変やぞ!」
紫音「そ、やでな!」
要「おう…俺昨日から言いたかってん」
「変じゃないし!」
要、紫音「いいや、変や!」
(帰ったら関西弁練習しとかないと…)
要「さあ!準備するぞー」
俺たち3人も部活の前準備に取り掛かった。俺はメジャーで距離を測るのを手伝いに行く。そこには山口がいた。山口は俺を見つけるとすぐに駆け寄って来て、
山口「姫野先輩、ちわーっす!」
大きな声だ。正直やかましい。
「あぁこんにちわ」
山口「準備は任せといて下さい。先輩はゆっくりしといて下さいよ」
「いや、いい」
山口「マジ、俺やりますから…」
「他の2年もやってるし、ゆっくりする方が落ち着かんわ」
山口「そうでありますか!了解です。何かあれば俺…僕に用事を言って下さい!」
そう言うと山口は他の部員が集まってるところへと駆け寄っていった。
(あーも人が変わるもんかねぇ…)
なんとなく感心してしまう。やがて3年生も合流して俺の陸上部2日目が始まったのであった。
練習メニューも半ばに差し掛かった頃、のどが渇き給水しようとしたらほとんど水筒の中身が空になっていた。
(だいぶ飲んだもんなぁ…あーのど乾いたなー)
と、困っているとマネージャーが駆け寄って来た。ナナちゃんだ。
菜菜香「あのー、給水もう無いですかぁ?」
「え?あ、うん!」
突然の事にびっくりしたが、悟られないよう精一杯普通を装った。
菜菜菜「すいません、気がつかなくて…今入れて来ますね」
そう言って俺から水筒を奪うように取るとマネージャーたちがいる方へと走っていった。
(やったぁ!ナナちゃんと喋ったぞ♪)
部員とマネージャーなので当然なのだが…で、しばらくすると水筒を手に戻ってきた。
菜菜香「お待たせしました!どうぞ」
(女神のような笑みで女神のような言葉じゃん!生きてて良かった!)
そして勢いよく水をのどに流し込んだ。
(女神の水はほんと美味しい!)
俺は喜んでいる感情を精一杯抑えて
「ありがとう」
と至って普通に返した。が、それ以上は言葉が出てこないというのが正直なところだ。俄然やる気が増してきた。
(今日という日に感謝しよう)
そう思いニヤけそうになるのをグッとこらえながらもう一度水筒に口をつける。すると後方から
後方の声「姫野くん」
「はい?」
と返事を返しながら振り返った。そこには3年生の先輩マネージャーである藤代楓(ふじしろかえで)が立っていた。藤代先輩は陸上部でいちばん怖いと要から聞いていたのを思い出した。
(俺何かしたのだろうか?)
藤代先輩「あなた給水無くなったの?無くなったのだったら早めに言ってくれないと困るわ。私たちマネージャーもやる事が多いのでそれくらい気づいてくれない?」
(威圧感ハンパない!)
「はい!すいません」
藤代先輩「マネージャーは奴隷じゃないの!覚えておいてね」
「はい。わかりました!」
(怖ぇー!)
藤代先輩はそう言うとスタスタと持ち場へ戻って行った。
大和先輩「おい姫野ちゃーん…お前何したの?」
後方から様子を見てた大和先輩が声をかけてきた。
「いえ、給水早めに言えって言う事とマネージャーは奴隷じゃないって注意受けました」
大和先輩「あーね!楓は厳しいからなぁ」
「はい、以後気をつけます」
大和先輩「まぁ気にすんなって!楓は厳しい口調でもの言うが、根はいい奴やから…」
大和先輩はそう言い俺から離れて練習へ合流した。俺も練習へ合流し再び汗を流した。
部活が終わり、帰ろうと要と紫音と部室を出ると菜菜香が待っていた。
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