校外でのこと

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校外でのこと

菜菜香は同じ陸上部の1年生マネージャーと一緒にいたが、俺の姿を見つけると他のマネージャーを待たせて駆け寄って来た。 菜菜香「あのー姫野先輩…」 「あ!お疲れー。どうした?」 (何だろう?) 菜菜香「今日の部活、私のせいで楓先輩に叱られたのすいませんでした」 「え?……!あぁー」 (忘れかけてたけど、注意されたなー)  すかさず要が 要「大丈夫大丈夫!悪いのはこいつだから菜菜香ちゃんが気にする事ないよ」 紫音「そうそう!悪いのはぜーんぶこいつや」 (いや、たしかにそうだけど、こいつらが言うとムカつくな) 「うん、大丈夫だし、俺が気がつかなかったから…菜菜香ちゃんは悪くないから気にしないで」 菜菜菜「ありがとうございます。でも、ほんますいませんでした」 (前から知ってるけど…やっぱりいい子だなぁ) そして3人へ向かって 菜菜香「これからもどんどん用事行ってください。頑張りますから!」  と、言いペコっと頭を下げ 菜菜菜「では、失礼します」  と言い他のマネージャーの元へと歩いて行った。 要「気をつけて帰りやぁ」 紫音「お疲れさん!」 他のマネージャーと共にこちらへ向かい3人で再びペコっと頭を下げ帰って行った。 要「なんか癒されるよなぁ…可愛いし」 要はボケーっといつまでも見送って見ている。 紫音「なんて良い子なんだ…」 (ふふふ、お前らは今知ったやろうけど、俺は前から知ってるもんね) 「そうだな…」 俺はそれだけを言い多くは話さなかった。そして分かってはいたが、ナナちゃんが良い子だと再確認した。 次の日… 珍しく朝早く起きたのでいつもより一本早い電車に乗ることができた。雨が降りそうなのでちょうど良かった。そして電車を降り、学校へと向かい歩いていた。 (そういえば昨日萌先輩とぶつかったやつがこの辺にいたよな) 俺は辺りを歩きながらあたりを見渡した。  いた! あいつだ! 昨日より少し奥の自販機の後ろに隠れるようにして顔が半分ほどしか見えないが、間違いなくあいつだ。 (変質者だろうか?気色悪っ!) あんまり関わり合いたくないと思った俺は気づかないふりして通り過ぎた。特に何事もなく通り過ぎた。気持ち悪く感じはしたが、やり過ごすと気にはならなくなっていた。そして俺は学校へ到着し授業を終え部活へと急いだ。 昨日と同じく俺はグランドへ出て部活の準備へと取り掛かっていた。そこへ大和先輩がやってきた。 「ういっす!」 大和先輩「おう!姫野ちゃん、今日も昨日と引き続き200メートル走やってもらうよー」 (げっ!またー?軽く言ってくれるけど、200メートル何本も走るってしんどい) 「あ、はい」 とりあえず従うしかないので返事を返した。 大和先輩「姫野ちゃん、いややなぁって顔に出てるよー。カッカッカ…」 「いえ、そういうわけではないっす」  なんとかごまかした。大和先輩はそのまま笑いながら歩いていった。その様子を見て紫音が近寄ってきた。 紫音「また200走るんやろ?」 「あぁ、またしんどいわ」 紫音「お前の場合ブランクがあったから仕方ないよ。まず体力作らないとあかんから先輩達も考えてくれてんちゃう?」 「そういうもんかね」 (そうかもしれないけどしんどいのは嫌だ) 紫音「まぁ腐らずに頑張れ」 「そだね」 (はいはい、頑張ればいいんでしょ!)  こうして部活が始まり、まぁまぁしごかれる。山口や源太や要は スタートの練習、俺はひたすら200メートルを走り繰り返す。もちろん俺1人ではない。1年生も2、3年もいる。大和先輩もいる。だが、慣れていないのは俺だけである。200メートルをただ走るってのが苦痛以外何物でもなかった。大和先輩は 大和先輩「いいか、姫野ちゃん。200メートルは走るだけでなく、その中に曲線を走る技術、体重のかけ方、力の配分、戦略、スタートなどと緻密な奥深い競技なんだからちゃんと意識してやらないと自分のためにならへんよ」 (この人は普段はフワッとした感じだけど陸上のこととなると真剣になるんだな) 「わかりました、意識してやります!」  納得した俺は素直に返事をした。 (まず200メートルを走れる体力をつけないとな)  自分でも体力的なところから鍛え直さないとダメなのはわかるが、どうやったらいいのか方法が分からない。ひたすら走るのみなのだろうか。  こうして今日の部活もヘトヘトになりながらもメニューは終了した。もちろんその間の給水を早めにマネージャーに伝えて補給したのは言うまでもない。  最後のストレッチが終わり片付けを始めた頃、キャプテンと萌先輩と藤代先輩の3人が一緒にやってきた。 (そう言えばこの3人今日の部活で見なかったなぁ。どこにいたんだろ?)   大和先輩「それでは今日の練習は終わりです。お疲れ様ー」 部員「お疲れ様です!」「お疲れ様っす」  そして部員全員が部室へと向かう。俺も部室へと向かおうと歩き出した。そのタイミングでキャプテンから声がかけられた。 キャプテン「姫野ー!」 「はい!」 キャプテン「こっちに来てくれー」 「あ、はい」 俺は後から来た3人の方へと駆け寄っていった。 「はい?」 (なんだ?) キャプテン「この前に萌が朝に自転車でぶつかった事覚えてるか?」 「あーはい、覚えてますよ」 キャプテン「あの時、ぶつかった男も覚えてる?」 「はい」 キャプテン「どんな風にぶつかったか見たか?」 「はい、狭い道から男の人がすごい勢いで急に飛び出して来て先輩に突っ込みました」 キャプテン「なるほどな…」 「その男がどうかしたんですか?」 藤代先輩「その男が今朝、萌を待ち伏せして因縁つけてきてるの。30万円の自転車弁償しろ!とか怪我したので慰謝料払え!とか」 「あーだからかぁ…」 (あの気色悪いやつ萌先輩を待ってたのか…) 藤代先輩「君、何か知ってんの?」  藤代先輩のメガネがキラッと光ったかに見えた。 「あの男、昨日と今朝、萌先輩とぶつかった場所で見かけましたから…」 萌先輩「まじ!…あーん…キモイよー!」 「萌先輩は大丈夫だったのですか?」 萌先輩「へんな因縁つけてくるから、あなたがぶつかってきたんでしょ?って言った」 「あの人は何て?」 萌先輩「そしたら、あっちで話ししよか?ってボロボロの倉庫みたいなところを指差すの。で、キモイ!って言って全速力でチャリ漕いで逃げた!」 「そうなんだ」  萌先輩が気持ち悪そうな素振りを見せる。そしてキャプテンが再び話し出す。 キャプテン「とりあえず顧問の先生には話し、警察と萌の親には連絡する事になった」 (まぁそうなるでしょうね) キャプテン「萌もしばらくは車で送り迎えしてもらった方がいいって言ってるのだが、本人がどうも嫌らしい…」  キャプテンは萌先輩をチラッと見た。 萌先輩「だってぇ…なんか目立つから嫌だもーん」 (いや、普通にしてもこの人、目立ってるけど…) 藤代先輩「この子はこうなったら言うこと聞かない。頑固なんだか、わがままなんだか…」 「あーなるほど」 萌先輩「こら!そこ納得するなー!」  萌先輩の言葉を無視してキャプテンは話す。 キャプテン「警察も学校も巡回してくれるだろう。だが、それだけでは不安なんだ。いつでも萌の周りに警護が付いている訳ではない」 (確かにそうだ) キャプテン「だから自転車で来るのは俺も藤代も反対しているのだが…」 萌先輩「だーかーらー!大丈夫だってー!あいつ来たら逃げるし!」 「僕も自転車で来るのはやめた方がいいと思います。1人になるのは危険だと思います」 萌先輩「えー!こうちゃんまで反対するのー?」  キャプテンは半ば呆れたように右親指を立てて右側に居る萌先輩を立てた親指で指差した。 キャプテン「こういう感じだ…」 「なるほど!」 萌先輩「こらこらこら!」  萌先輩は不満そうである。 キャプテン「そこでだ!」 キャプテンは俺の顔をじっと見る。 「はい?」 (なんか、嫌な予感しかしない) 萌先輩「んんー?」  萌先輩も不思議そうにキャプテンを見る。そしてキャプテンは少し間を空けたあと話を続けた。 キャプテン「明日から姫野も自転車通学する事に決定した」 「は?」 (話が見えないんですけど?) 萌先輩「へ?」 キャプテン「早い話、萌と通学を共にするって事だ!」 「え?」 (何が早い話かよー分からん) 萌先輩「お♪おおー!♪」 キャプテン「姫野は住まいは山手の方だろ?そのまま萌の家の方を回っても、さほど遠回りにはならない。」 「ここまでチャリっすか?」 (いやいや、めっちゃ遠いじゃん) キャプテン「そうだ!お前も1人は危険だと思ってるようだし」 萌先輩「いい考えやーん!♪」 「いや、あの…」  俺の話を遮るように藤代先輩が話しだした。 藤代先輩「君、200メートル全力で走れる体力も無いよね。いい機会だと思うけど…」 萌先輩「そうそう!いい機会だ♪」 (この人は…) キャプテン「体力も付けることが出来るし、萌も1人より2人の方が安心できるだろうし、一石二鳥だ」 萌先輩「うん!めっちゃ安心するー」 「ええーまじで言ってますか?」 藤代先輩「まじどころか、君に拒否する事は許しません」 (やっぱり怖えぇこの人!)  キャプテンは藤代先輩の言い方に気をつかい言葉を上から被せ キャプテン「まぁまぁ」  と言ったあとに キャプテン「とりあえずしばらくはそれでやってみよか?萌の為にもなるし、お前のためにもなると思う。1年のブランクもあって早く体力をつける必要もあるしな」 「は、はぁ」 (また、まじ?って言うと怖いしなぁ) 萌先輩「じゃあ、決定ー♪」  萌先輩は自分の事なのになぜかこのテンションだ。俺はただただ呆然と相づちを打つしか出来なかった。こうして俺の自転車通学は始まったのであった。
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