押入れにファンタジー

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押入れにファンタジー

 年末、と呼ばれるこの季節。飼い猫の僕はどうしても好きになれない。  理由その一。この時期は大好きなお母さんが家にいる時間が極端に短くなる。お母さんはパートで“コールセンター”というところに勤めていて、この時期は“クリスマスが近いからとても忙しい”ということらしい。僕はとっても不満だ。一分一秒たりともお母さんと離れたくなんかないというのに。  理由その二。この時期にはいわゆる“大掃除”というものがある。時々あるお休みに、お母さんは家族と一緒に家中を掃除しようとする。僕も、お母さんの息子で小学生のやっくんも掃除がだいっきらいだ。いかにこの“大掃除”というものをスルーするか、毎日全力で思案しているほどである。まあ、ペットの猫である僕本人が掃除を担当するわけではないのだが――何が嫌って、掃除がだいっきらいなやっくんがイライラし始める上、部屋のどこにいても僕は邪魔者扱いされるからである。 『リオ!お願いだから洗濯物で遊ばないで!』 『ちょっとリオ、キャットタワーからどいて!隙間が埃だらけになってんの!』 『もー!リオ、危ないじゃん、重いもの持ってる時に足下通らないでよおおお!』  まあ、こんな具合。  まだ二歳の僕がこの家で過ごした時間はさほど長くはないけれど。去年はこんなかんじでひたすら邪険にされたもので、僕は大層機嫌を損ねる結果になったのだった。今年はあんな嫌な一日を過ごすのはごめんである。なんとかして、大掃除の開始を阻止するか、掃除が始まった時安全に避難できる場所を確保しなければならない。 ――大掃除をやるとしたら、お母さんがお休みできる再来週の日曜日、のはずだ!  それまでに、なんとか“大掃除阻止計画”を練らなければ。ついでに、そんなことしてる暇があったら僕とめいっぱい遊んでくれるように精一杯アピールしなければ。僕は気合を入れていた。――残念ながらそんな思惑も虚しく、現在僕はお母さんに抱っこされてふてくされているわけだったが。 「にゃあああああ!」 「リオ、ちょっと早いけど今日大掃除することになったから。去年みたいにうろちょろして邪魔しないでね」 「にゃああ!にゃあああ!にゃあああああああああああ!」 「暴れないの!今日はそこで大人しくしておいて頂戴!」
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