押入れにファンタジー

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 それに、お母さんの仕事もそうだ。コールセンターというのがどういうものか知らないが、クリスマス前後の一番家族と過ごすべき時期に限って忙しいというのがよくわからない。もっと言えば、今は世間はナントカという病気が大流行しているせいで大変なことになっているはず。ニュースでも、家で仕事ができる社会人が増えたという話なのに、何故お母さんは今も昔も変わらず会社に出勤なのか。彼女も家で仕事をしてくれればいいのに。そうしたら、僕も一緒に過ごすことができるのに。 ――このやろ、このやろ!お前らは納得しててもな、僕はぜーんぜん納得してないことだらけなんだぞこのやろー!  えいえいえい、とキャリーケースの留め金をがしがしと前足で攻撃する僕。なんといっても僕は知っているのだ。この紫色のキャリーケースは結構ボロになっている。こうやって振動を与えてやると、留め金が外れることがあるということを!  暫くがしがしがし、と繰り返していると。やがてばつん、と手応えがあってケースの蓋が開いた。やっくんは本棚から出してきた漫画をうっかり読んで夢中になってしまい、こっちにお尻を向けているので僕の行動には全く気付いていない。チャーンス!と僕はぴょーんと飛び出すと、散らばったものの隙間を上手に縫って押入れに飛び乗ったのだった。  大掃除で中身を排出された押入れはぽっかり開いていて、いつもと違い茶色の壁や板をがっつりと晒している。どうせ構ってくれないなら、自分は自分で面白いことを探すだけなのだ。僕はいつもと違う押入れをじっくり調べてやることにした。うっかり隠してあるオヤツとか、秘密の引き戸とかあったりしないものだろうか。 「むむむ!?」  そして見つけた、押入れの天井。ぱかり、と一箇所開く場所があるではないか。端にまだ積まれたままになっている座布団の上に乗っかると、えい、と前足でその隠し扉のようなものを開いてみた。留め金一つでぱっかり下に開く仕組みになっていたようで、少し振動を与えただけであっさりと口を開ける隠し扉。何か面白いものでもあるのだろうか、と僕はその扉にえいっとジャンプして飛び込んだのだった。棚の上天井の上、僕にかかればちょっと高い場所でもラクラクスイスイ冒険できてしまうのである。
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