押入れにファンタジー

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 ***   光が収まった時。僕は、さっきの屋根裏とはまったく別の場所にいた。どこかの事務所のような場所で、僕と神様は半透明になってふわふわと浮いているのである。  イヤホンマイクのようなものをつけた人達がパソコンの前にずらりと座って、何かをずっと喋っている。  プリンターの前で、必死にFAXを送っている人がいる。  事務所に到着した荷物を開き、しかめっつらをしてパソコンの画面とにらめっこしている人がいる。 「あ」  僕は気づいた。イヤホンマイクで喋っている人の中に、見知った顔がいるということを。此処は、お母さんが働いている職場だ、とすぐに気づいた。まさか神様は本当に、僕をお母さんの職場に連れてきてくれたというのか。 「お電話ありがとうございます、クノトイズコールセンターより、岡田がお受けいたします」  はきはきとした声で、電話の向こうの誰かに喋るお母さん。 「……はい。はい。なるほど、キティちゃんがついたピンクのモデルですね。キティちゃんと一緒、お手伝いゲーム!でよろしかったですか?……はい。“液晶画面が反応しなくなってしまったということですね。電池を交換しても変化がない、と。大変申し訳ございません。……わかりました、ではこちらから新しいものを送らせていただきますので、送付先のご住所をお願いできますでしょうか?」  話している内容で、僕はピンと来た。お母さんの仕事が、コールセンターということは聞いている。それが電話を受けるお仕事だということも。しかし、実際何の電話を受けているのか、何を扱う会社であるのかは聞いたことがなかったのだ。  此処は、玩具の会社のコールセンターだった。  つまり、この時期に忙しい最大の理由は。 「もうすぐクリスマスだ。お父さんやお母さんが、子供達のために玩具を買う時期なんだよ。クリスマスの後にはお正月もあるし、子供達にプレゼントを買う大人が多い。そういう玩具が壊れてしまった時。あるいは動かす方法や購入方法を知りたいというお客さんが、こうしてこのコールセンターに電話をかけてくるというわけなんだ」  神様は、優しい声で僕に言う。
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