スノウ・カントリー

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 クリスマスイブ。あたしは大学の留学生寮の友人たちとスキー場近くの安っぽい貸別荘にいた。着飾ってすごす相手もいないし、家族とすごしたいと思ったことなど、この十年一度もなかった。奇跡的にそう思ったとしても帰るには飛行機だけで十時間以上かかる。家に着くのはクリスマスが終わったあとだ。  テーブルの上には食べ終えたシチューの皿とケーキの残りとビールとポップの缶が転がっていた。何度も何度も乾杯した。今夜の主役に、もう来なくなって久しい白髭のおじいさんに、遠い故郷の人たちに。目の前の愛しい仲間に――乾杯した。ほんとうに楽しかった。  明日スキーに行くなんて思えないほど、みんな酔っぱらっていた。男四人に女二人。専攻も年齢もちがったけど、何の気兼ねもいらない、寮の食堂のバイト仲間。きょうだい同然の人たちだった。  時計は午後九時をまわったところ。ディナーが終わって、みな思い思いにくつろいでいた。寝るにはまだ早い。あたしは白ワインをボトルからラッパ飲みしながら、物静かなヒゲ面のノルウェー人ルーカスと明日滑るコースの話をしていた。ルーカスもかなりやりそう。明日が楽しみだ。
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