episode 2

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 平日水曜のファッションフロア。他のお店は空いているのに三階に到着すると、N.RAIN2 には試着室に並ぶ列ができていた。  N.RAIN2 はユニセックスブランドで N.RAIN ほどのフォーマルさはない。言うなれば、オフィスカジュアル。また洋服だけではなく、財布やスマホケースなどの雑貨も取り揃えている。ユニセックスといえど、N.RAIN はもともとレディースのブランドだったので、男性客はまだ少ない。  入り口の辺りにかかっている薄手のカシミアのロングコートに手を触れると、店員スタッフがにっこりと微笑みかけてくる。 「こちらは今シーズンの新作です。良かったら、ご試着なさってみてください」  私はさっと視線をそらし、軽く会釈をして売り場から少し離れた。  エレベーターの方へ回ると、ファッションとインテリア雑貨フロアのちょうど中間くらいに、dear ai というお店が目に入る。N.RAIN2 の人の入りとは対照的に暇を持て余している様子の小柄なスタッフがレジ前に積まれたインナーをせっせと無意味にたたみ直している。  dear ai ―― 知らないブランド。お店の中はなんだか、誰かの部屋の中みたい。ウッド調の壁、中心に存在感を出すブラウンのソファにはいくつかの部屋着用の服が並んでいる。洋服が選ばれよう、着てもらおうとショーケースに並んでいるというよりも、ただそこにある。溶け込んでいる。溶け込みすぎていて、服を選ぶというより、ここで昼寝でもしてしまいそうな、そんな雰囲気。ワンピースはどれもゆったりとしたフォルムに柔らかい素材。レディースだけではなくメンズもある。植物の緑が入り口のところとレジの横に。その鉢の元にフラットシューズが、ちょこんと置かれている。  さっきの暇そうなスタッフがおよそ部屋着ではないかと思われるほどリラックスした丈のコットンシャツを着て、あまりにも自然に背景の森林の絵画と馴染んでいるので、ここが都会の中心だということをつい忘れてしまう。
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