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大食らいで穀潰しで都へ行っては放蕩三昧し、自ずと破顔になり太鼓腹になるその姿は皮肉を込めて布袋さまと思えば間違いない。だから笑顔だけが取り柄と言えなくもない。そんな息子を持つ伸介は大きな旧家の家主でド田舎の村にはそんな家が徒に立ち並んでいるから年末になると、何処の家も大掃除に追われて大童で猫の手も借りたいというのに呑気にぶらぶらと村中を散歩していた。それをハタキで埃を飛ばしながら開け放たれた窓越しに見ていた家主の幸吉は、表へ出て伸介に声をかけた。
「おい、伸介どん、随分のんびりしとるな」
「ああ、おらとこはもう掃除終わったで」
「はあ?もう終わっただか?」
「うんだ、家の布袋さまがやってくれたで」
「えっ?あの箸にも棒にも掛からねえドラ息子がか?」
「うんだ。屁一つたれやあ済むことだで」
「はあ?屁一つって何だべ。冗談こくでねえ。冗談は顔だけにしなくっちゃあなんねえだ」
「それこそ冗談じゃねえべ。おらの顔を何だと思っとるだべ!」
「ああ、怒っただべか、悪かった、すまなんだ」と幸吉は伸介の険しい剣幕にたじろいだ。「だども、屁一つって言うだで・・・」
「屁一つって言ってもおらたちの屁とは訳が違うだべ。何食ったらそげな屁が出るだと訝しく思うのも当然だども家の布袋さまの屁は何人分もしこたま食って腸にしこたま溜め込んだ上で出す屁だで野分みてえに強力なんだべ。ほんだで家の布袋さまが屁一つたれるだけで物という物の表面だけでなく隙間も裏も隅々まで煤払い出来ておまけに台所の油汚れまでもが、兎に角、出てって欲しいもんは全部吹っ飛んで行って窓から外へ退散してしまうだ!ハッハッハ!」
「そげなすげえ屁が・・・」
伸介が大笑いするのを横目に法外な取り柄もあったものだと幸吉は呆れ返ってものが言えなくなるのだった。
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