嘘つき既婚男を成敗せよ

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翌日上島さんが会議室で一人で遅れた昼食を食べていた。周りには誰もいない、今がチャンスだ。 上島さんの隣に歩み寄るとおそるおそる話しかけた。 「上島さん、あの昨日の話なんですけど、私やっぱり悔しくてやり返してやりたいです」 上島さんはニッコリと笑った。彼女の穏やかな笑顔を初めて見た。 「下村さん、今日の夜空いてる?」「はい」と頷くと「七時に大宝まで来て」と言い食べ終わったお弁当箱をしまい始めた。 大宝とは会社近くの安くて美味しい居酒屋だ。 今年入社したばかりの男性社員二人組がコンビニの袋をリズミカルに揺らしながら会議室に入ってきたので慌てて仕事に戻った。 七時、約束通り大宝で上島さんと会った。天敵であるはずの上島さんと会社終わりに生ビールを飲んでいるこの状況が少し面白い。 生ビールのジョッキを飲み干すと机を勢いよく置いた。 「上島さん私やっぱり悔しいです。あいつに一泡吹かせてやりたい」 上島さんもビールを飲み干した。 「私そういう卑怯な男が大嫌いなの。既婚者だってわかってて付き合うような馬鹿女なら勝手にすればいい、でも独身のフリして女騙して付き合うなんて卑怯すぎる。 男が騙してなかったら、女も違う誰かと出会えて付き合えてたかもしれない。貴重な時間を無駄にさせて絶対に許せない」 上島さんが大嫌いなのだが、この発言に感銘を受けた。何故だか涙が溢れてくる。 「上島さん、私上島さんのことがキツくて性格悪くて大嫌いでした。でも今は頼れる人が上島さんしかいなくて」 そう泣きながら言うと上島さんはフッと笑った。 「私も仕事をちゃんとしない甘ったれの下村さんのことが大嫌いだった、でも今は協力するよ、卑怯な嘘つき男は成敗しなくてはならない!」 ……成敗って時代劇かなんかで使いそうな言葉だと思ったけれど、今の私はそんなこと言える立場ではない。 少し酔い始めた上島さんは饒舌に喋り出した。 「まだ舞田さんには既婚者だとわかったことは知らせてない?」 「海外出張に行ってて、まだ連絡がついてないです」 上島さんはニヤリと笑った。 「良かった。とにかくやり返すには証拠が必要だから」 「証拠?」
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