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彼氏と同じ親会社から、打ち合わせの為に小田さんが来ているようだ。小田さんは文也の一つ後輩で人当たりの良いとてもいい人だ。
小田さんが課長と何やら雑談をしていた。課長によると親会社や子会社の社員をいい気分にさせるのも孫会社の立派な職務の一つらしい。
お盆を持ちながら近づくと、課長が歳が十五も下の小田さんをヨイショしていた。
「小田さんはゴルフお上手ですよね、いやーどこかスクールでも通ってらっしゃるんですか?」
「いやいや、僕なんてそんな。課長の方がお上手ですよ」
これは女でいうところの「かわいい!」「〇〇ちゃんの方がかわいい」と同じ種類の会話なのだろう。
お茶を二人に出してお菓子を置いた所で、会話は文也の話になった。
「うちの舞田の方がゴルフ上手なんですよ」と小田さんが言う。
彼氏のことを褒められて少し恥ずかしくなるし得意気にもなる。
中高大とバスケ部でバスケが好きだと言う話はよく聞く。ゴルフも上手なんだ。
日曜は接待ゴルフの誘いが多く殆ど会うことができないくらいだから、結構な腕前なんだろう。
ゴルフ場に今度連れてって貰おうかな。
そんな事を考えながら部屋を出ようとすると
課長がとんでもないことを言い出した。
「舞田さんは家族サービス第一だから、あんまりゴルフは付き合ってくれないんだよな」
……家族サービス?文也のお父さんとお母さんにってこと?思わずドアの前で足が止まる。
「うちの舞田、社内でも愛妻家で有名ですから」
……愛妻家……?
一体どういうこと?目の前が急に真っ暗になった。何故だか課長がドアを出かかっている私に話を振る。
「下村さん、舞田くんって素敵だよね」
「……えぇまぁ」
「何か仲良さそうだけど舞田君と不倫しちゃ駄目だよ」
課長はそう言って何がおかしいかわからないけれどガハハと笑い話を続ける。
「うちの女子社員からも人気でね、いやぁ奥さんが羨ましいですよ。お子さんも産まれたばっかりだし、きっと聡明なお子さんなんだろうな」
……子供?
私の全身は震えていた。
自分の彼氏だと信じていた人は既婚者で子持ちだった。
こんな事があっていいのだろうか。
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