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給湯室で人知れず泣いていた。もう立ち上がれない、信じていたのに裏切られた。
言われてみると、文也は毎週日曜日は決まって接待ゴルフで、毎週自由に使える日は土曜だけだった。
独身寮に住んでるから、部屋には連れて行けないとよく言っていた。
次々と不審点が浮き上がってくる。どうして今まで不思議に思わなかったのだろう。
自分が情けなくて涙が止まらない、最近子供が産まれたばっかりってどういうことなの。
その時だった、給湯室のドアが開く音がし背後から声をかけられた。
「下村さん、どうしたの?」
よりにもよって天敵である上島さんに見つかった。
けれど今は誰でもいいから話を聞いて欲しい、天敵である上島さんが女神の様に思えて来てしまっていた。
「あの、私親会社の舞田さんと付き合ってたんですけど、さっき舞田さんが既婚者だってわかって」
そう言っただけで上島さんは急に渋い顔になり自分の事の様に憤った。
「本当に卑怯、若い子の貴重な時間無駄にさせて、絶対に許せない」
上島さんは先祖代々敵対している憎き敵を見つめる武将の目をして親会社のビルの方角を睨んだ。
「仕返ししたいなら手伝おうか?」
私の頭の中は急な変化についていけない。
「そんな仕返しなんて怖い事できません」
泣きながらそう言うと上島さんは私を軽蔑した様に見つめた。
「だったら泣き寝入りするしかないわね、あなたみたいな情けない女が沢山いるから、ああいう卑怯な男がのさばっていくのよ」
酷い、酷すぎる。一瞬上島さんっていい人と思ったけれど、やっぱり違った。上島さんは上島さんだった。
「全員が全員上島さんみたいに強い人じゃないんです!」
そう言い返すと、上島さんは元の仕事で見せる冷淡な表情に戻った。
「じゃあ気が済んだなら仕事に戻ってね」
上島さんはそう冷たく言い放つと給湯室のドアを閉めた。
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