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その晩、隣のデスクで働いている派遣仲間の美里をファミレスに呼び出した。
経緯を泣きながら説明すると、美里も憤ってくれた。
「何それ!ひどいよ!既婚者だったなんて舞田さん何考えてんの!鳴海は舞田さんと付き合う為に学生時代からの付き合いの彼氏とも別れたのに」
「……でしょ?なんで騙されちゃったんだろ、悔しい。本当に悔しい」
涙がこぼれ落ちない様に上を向くと美里はポケットティッシュを取り出して私の涙を拭いてくれた。
「鳴海、もう連絡取らないようにして全部忘れなよ」
そういえば上島さんからも今日同じようなことを言われた、あの時は混乱して仕返しするなんて怖いと言ってしまった。
けれど仕返ししないということは泣き寝入りするということなのだ。
冷静に考えるとそれだけは許せない。
「……私騙された側なのに泣き寝入りしろって言うの?」
「だってそれしかないじゃん、奥さんから見たら不倫相手だよ。バレたら慰謝料請求されちゃうよ」
「慰謝料?私騙されて彼氏とも別れたのに?」
「仕方ないよ」
美里はそう言って悲しそうに頷いた。
「私は泣き寝入りするしかないの?」
美里は私から目を逸らした。
「それに、言いたくないけどさ奥さんが最近出産したってことはさ、奥さんずっと妊娠中だったわけでしょ?妊娠中ってできないからさ、誰かで発散したかったんじゃないの?」
「……発散って、私ただ単に性欲の解消に使われてただけってこと……?」
「おまけにさ、私たちみたいな孫会社の派遣社員って一番立場弱いでしょ?何かバレても弱い立場だから訴えにくいっていうか、舞田さんそう言うことも考えてるんじゃないかな」
確かに私の代わりなんていくらでもいる。少しでも親会社と揉め事を起こそうものなら、すぐ何やかんや理由をつけて首を切られてしまうだろう。
美里は悲しそうに話を続けた。
「親会社にいる派遣の子達ってみんな超美人揃いじゃん?そこに手を出さないで、私達みたいな孫会社の派遣に手出してくるってことは、そういうことじゃん。舞田さん全てわかってやってるんだよ」
そこから先はご飯も飲み物も喉を通らない。
家に帰ると彼から貰った手紙やプレゼントをバラバラに破った。彼からもらった物全てを破壊した、
でも気が収まらない。
文也は今海外出張中で帰ってくるのは四日後だ。本人を問い詰めたくてもできない。
暫くベッドでゴロゴロしても眠れない。そしてある思いが沸き上がってくる。
「私はあの男にいいように使われる為だけに生きてるんじゃない。幸せになる為に生きてるはずだ。絶対に許さない」
かと言って頭もお金も学歴も職も大したことない私に何ができるのだろうか。
上島さんの嫌味な顔が思い浮かび、彼女が発した言葉を思い出した。
「仕返ししたいなら手伝おうか」
「だったら泣き寝入りするしかないわね、あなたみたいな情けない女が沢山いるから、ああいう卑怯な男がのさばっていくのよ」
上島さんのことは大嫌いだ、けれど間違ったことは言っていない。
あの人しかいない。
藁をも掴む気持ちだった。
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