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上島さんと自転車を二人乗りして二十分、私の自宅マンションに向かう。
自転車を二人乗りするのは高校生以来だった。夜風が気持ち良く吹き抜けていく。
そして漕いでいるのは彼氏でも友人でもなく天敵である上島さんという、この摩訶不思議な光景は一生忘れない。
私はごく普通のサラリーマンの父とスーパーでパートしている母と駅から20分ほど歩くマンションの5階に三人で住んでいる。
信号待ちの時にそう説明すると、上島さんは「都内に住まわせて貰える実家があるなんて羨ましいよ、私新潟出身だし」と呟き、信号が青になると同時にまた自転車を全速力で飛ばし始めた。
マンションに着くと上島さんは自転車をゴミ置き場の前に止め、「想像以上に広いね」と唖然と見つめた。
うちのマンションはマンモスマンションと呼ばれ計300世帯入居していると聞いたことがある。
とにかく二人でゴミ置き場を探した。
探している時にふと美里が言っていたことが気になり口にした。
「あの上島さん。奥さんから見たら私って不倫相手ですよね?私は慰謝料とか請求されたりしないんですかね?」
「その為に今から独身だって偽ってた証拠集めるのよ」
上島さんはゴミ袋を持ちながら毅然と言い放った。
「でも法律で結婚して奥さんになるというのは何よりも強い立場になれるって聞いたことがあって」
「確かにそう、奥さんは絶対的に強い。だけどこんな風に独身だって騙された人の為に貞操権っていうのがあるの」
「貞操権?」
「私の素人解釈だけど、簡単に言えば体の関係を自分の自由に選んで決められるっていう権利のこと。だって下村さんは既婚者だって知ってたらあいつと関係持ってた?」
「絶対持ってません、真剣に付き合ってると思ってたから……本当に何であんな人と関係持ってたんだろ」
「ほら、自分の意に反して関係を持ってるじゃん。貞操権を侵害されてるよ」
上島さんはそう言って優しく笑った。
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