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私の名前は下村鳴海、年齢は25歳。一部上場企業の東京山フードの子会社の子会社である東京山技術フードの商品営業部に派遣され働いている。
勉強が元々好きではないので、何となく入学した実家から通える誰でも入れる大学を可もなく不可もなく卒業し、新卒で入った不動産の営業の仕事を三ヶ月で辞めた。
私に営業は向いていなかった。その後は派遣で会社を転々としている。
今の仕事場にはちょうど一年前に派遣になり、ここで隣の隣の大きなビルの中にある親会社で働いている舞田文也33才と知り合った。
文也とは最初、仕事上の付き合いだけだった。
彼からの熱心な誘いも彼氏がいるから断っていた。けれど半年間に及ぶ文也の情熱的なアプローチに負けて付き合いだした。
最初の出会いは派遣されて三週間後のお茶を出しに会議室に行った時だった。
会議室には文也が一人だけ座っていた。
私がお茶を出すと文也は「新しい派遣の子?名前聞いていいかな?」と言ってくれた。
わざわざ派遣の私の名前まで覚えようとしてくれるなんて、凄くいい人だなと思った。
そして何度か顔を合わせる度に雑談をするようになった。そんなある日、一人で近くの喫茶店でランチを食べていると文也が偶然一人でやってきたのだ。
流れで一緒に食べる事になった。私の七つ上なだけあり、話題も豊富で面白く楽しかった。
彼の好きなバスケットボールの話からテレビの話題、流行りの曲、果ては部長とか課長の裏話までしてくれた。
本当に楽しい一時を過ごした。
それで終わった筈だったのだが、三週間後また同じ店で会ったのだ。
そしてそこで彼から「次に会ったら渡そうと思ってこの店に通ってました」と手紙をもらう事になる。
「初めて見た時から、運命を感じました。あなたとずっと一緒にいるような気がします。連絡下さい」と書いてあった。
席が隣の美里に相談すると「仕事先の人でおまけに親会社の人だから、一応はメッセージ送って彼氏いるんです」って言っておけばいいんじゃない?」と言われたのでそうした。
ところがその日から毎日熱心なメッセージが届くようになり、最初は彼氏がいるからと毎回断っていた。
半年が過ぎると私の心も揺れ動くようになる、そして初めて食事をした喫茶店で一人ランチを食べていると、文也が薔薇の花束を持ってやってきた。その姿をみて恋に落ちてしまったのだ。
半年の間に手紙も何通も貰ったし、プレゼントも沢山貰った。
文也と付き合う前に、学生時代からの付き合いの四年間付き合っている彼氏がいた。お互いにそのうち結婚するだろうと思っていた。
けれど文也と付き合う為に心を鬼にして別れた。
文也の方に魅力を感じてしまったのだ。こればっかりは仕方がない。
この元彼は昨年結婚したらしいと噂に聞いた。本当に大好きだったし彼には幸せでいて欲しい。
文也は優しくてかっこよくてグレーのスーツがよく似合い仕事ができる、私には勿体なさすぎる素敵な彼だった。
「鳴海とずっと一緒にいたいな」
彼からそう言われることも増えてきた。結婚というゴールがもうそこに見えている。
彼は「温かい家庭を作るのが夢で、奥さんには専業主婦でいて欲しい」と常々言っているので、結婚したら仕事を辞めるつもりだ。
幸せな未来に手を伸ばせば届きそうだった。
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