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「ねぇ幽霊。恨み辛みが無いって、そんなに普通じゃないことなの?」
「はい、かなりのレアケースです」
志麻さん悪意の有無よりも、そっちを気にしますか!
この先のことも考えると、僕と普通の怨霊の違いを説明しておくことは、大事なことかも知れません。
「お菊さんの話を覚えていますか?」
「皿屋敷のお菊さんでしょ。あのときは平日なのに呑んだよねー♪」
「かなり呑んでましたね。そうです、あのときのお菊さんの話です。お菊さんの幽霊に基となる故人が居たとしますよね。そのお菊さんの幽霊は怨霊と地縛霊の性質を持っています。恨む相手に憑きながら、井戸という場所にも憑いている。このお菊さんに向けられた恐怖は、お菊さんに報復される理由があるからこその恐怖と、報復された者がいる事実を、知っているからこその恐怖です。後から出てきたそれ以外のお菊さんは、恨み辛みを持たない幽霊なので、井戸に憑く地縛霊の性質以外は持っていません。噂を聞いて感じた解らないモノへの恐怖です。事実だから感じた恐怖と、曖昧だからこそ感じた恐怖。そこがオリジナルのお菊さんと、その他のお菊さんとの違いです。僕は後者の曖昧な恐怖から生まれた幽霊なので、そのままでは人に憑く怨霊には成りません。ここまでは解りますか?」
頭では分かっていても心に落ちてこないのは、本来の怨霊に出会ったことが無いからでしょう。
「本来の怨霊は憑いて恨み辛みを吐き出すことで、人に害を与えながら、恐怖となって霊力の補充を受ける事ができます。物の怪は自分に対する霊力以外は、どんなに接しても取り込む事はできません。だから怨霊は自分を維持するためにも、憑いている人に恐怖を与える必要があるんです」
眉をしかめて考える志麻さん、いつもならば冷蔵庫からアルコールを出して来る頃合いでしょう。
「ねぇ幽霊。怨霊は恨むから憑いて、晴らすために害を与えて、怖がられて自分を維持して、継続するためにまた害を成すってこと?」
聞いた話を自分の言葉に置き換えて理解する。
さすが志麻さん、柔軟かつ飲み込みの早い人です。
「だったら幽霊はどうやって、私に憑いているの?」
そうそれこそが、本来の怨霊の在るべき姿と僕との違い。地縛霊だった僕が、怨霊に成った理由。
「志麻さん、答えはとても単純なんですよ」
わかり易いように、志麻さんが間違えないように。僕は自分の立ち位置を、土台から築きましょう。
「木本家の幽霊さん達は十人居ますよね」
「会ったことは無いけど、幽霊のお友達なのよね」
「はい仲良くして頂いてます。木本さんの家に十人もの幽霊が居て、木本さんご本人はとてもお元気ですよねぇ」
「そう言われれば、元気だよねぇ?木本さん家の幽霊達は、怨霊じゃないの?」
「いいえ。十人全員怨霊ですよ。ですが木本さんに憑いていても、害には成っていませんよね。何故かわかりますか?」
志麻さんの頭の上にクエスチョンマークが3つ浮き上がっては消えて逝きます。
これも物の怪の1つの形態なのですが、幽霊とは違いますし、御本人が気付いていないので無かった事にしておきましょう。
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