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 監視システムが壊れた南のゲートを抜けて、カイとゲルダは『施設』を抜け出した。  ゲートの先には何もなかった。どこまでも森が広がっている。道路もなければ人が踏み分けた細い道の跡さえない。 「ゲルダ、足元に気を付けて」  カイが伸ばした手を取って、(やぶ)で覆われた森の中を進んだ。  少し行くと川が見えてきた。河原があり、前世紀の人々がバーベキューやキャンプなどの屋外レジャーを楽しんだ跡が残っていた。  朽ちかけたアルミ缶と硝子瓶の欠片(かけら)。錆びた鉄が、元はどんなものに使われていたのかはわからない。二十一世紀の遺物。  大小の小石の中から黒く光る石を拾って、カイが高く手を挙げた。 「見て。ゲルダの瞳みたい」  ゲルダも足元を探した。青い硝子瓶の横に細かい欠片が落ちていた。欠片の一つを拾い、明るい日差しにかざした。  透明な硝子の向こうに淡く色づいた初夏の空が広がった。硝子の欠片はカイの目の色に似ていた。  ゲルダがそれを差し出すとカイは嬉しそうに笑った。金色の長い髪に木漏れ日が落ちて、きらきらと光の粒が零れた。  最後の夏。  十八歳になった二人は、今年のうちに『施設』を出ることが決まっている。  だからこの夏が最後。  宝物を握りしめ、来た道を戻った。森はどこまでも続いていて、ヒトの足で外へ出ることはできない。3Dディスプレイが映しだす立体衛星写真がそれを教えていた。  壊れたゲートの手前で、森との境に立つ唐檜(からひ)の根元に宝物を置いた。『施設』の中には持ち帰らない。コンクリートと強化硝子でできた建物はどこまでも清潔で、余計なものがあればすぐに清掃ロボットが片付けてしまうから。  小さな中庭に土はなく、宝物を隠せる場所はどこにもなかった。
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