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【2】
翌日は雨だった。
森に行くのは諦めて、ゲルダは図書室に行って絵本を読んだ。紙の本は元々少なかったし、ずっと同じ場所で暮らしているから、図書室の本はみんな読んでしまったけれど、別に構わなかった。
閲覧コーナーに端末があり、3Dディスプレイで映画やニュース配信を視聴できる。娯楽に困ることはなかったし、高い教養や専門知識が求められることもなかった。
何かを深く考える必要も。
ゲルダたちにとって大切なのは、心身ともに健やかであること。それだけだ。
紙の本は小さな子ども向けの絵本がほとんどで、何度も繰り返し読んだ中から、オスカー・ワイルドの『幸福な王子』を選んだ。
隅のベンチに座り、窓の外を眺める。銀色の雨が光を放ちながら落下して、コンクリートの中庭を黒く濡らしていた。
表紙に描かれた王子の絵を見つめ、この王子様はカイに似ているなと思う。
サファイアの瞳と金色の長い髪と、慈愛と悲しみに満ちた横顔が。
「ゲルダ、ここにいたの?」
本物のカイが現れて隣に座り、ゲルダは小さく微笑んだ。
ゲルダの肩に頭を寄せ、カイが手元の本を覗きこむ。「また、この本」と笑って、一枚一枚、一緒にページを捲っていった。
「美しい話だね」
打ち捨てられた王子の姿を見つめ、カイが囁く。
サファイアの瞳も体を覆う金もルビーも、全て貧しい人たちに与えてしまった王子。
無残な姿と魂の美しさについて、ゲルダは考えた。
みすぼらしい姿でゴミとして捨てられた王子は、燕とともに天使に選ばれ、最後は神様のところへ行った。
けれど、そんな救いがなかったとしても王子は幸福だったかもしれない。
気づかれることのない善意。
見返りを求めない献身。
困っている人のために、ひっそりと役に立つこと。
それらは、とても尊いことだから。
尊く、大切で、幸福なこと。
3Dディスプレイの中でアンドロイドの『先生』は、いつもそう言っていた。
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