【3】

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 ゲルダたちは『学校』で、人間の暮らしに役立つ先進技術について学んだ。  医療の発達がどれほど多くの人に幸福をもたらしたかを、たくさんの実例を挙げて『先生』が解説した。  生まれつき心臓に疾患を持っていた赤ちゃんは、保育ケースの中で今にも死にそうだった。  次の画面ではやんちゃな少年に成長し、家族と一緒に二十一世紀風のキャンプを楽しんでいた。本物の虹鱒(にじます)を釣り、光り輝く自然の湖水で泳ぎ、樹木に吊ったハンモックの上で兄弟と肩を組んで笑っていた。  事故で失明した五歳の女の子はうつろな目で宙を見ていた。  二年後の映像では街の学校に向かって動く歩道(オートウォーク)の上でスキップをしていた。教室の場面に切り替わり、大勢の子どもの前でディスプレイに映し出される文章を読みあげた。青い目をきらきらさせた女の子は、先生に褒められて照れ臭そうに微笑んだ。  ひどい火傷を負った若い女性は、新しい皮膚を得て美しい花嫁になった。家族や友人の祝福を受けて真珠のように光り輝いていた。  人工透析を受けていた母親は、充実した表情で子どもたちの世話に追われていた。いくら走っても疲れない体で、わんぱく盛りの三人の男の子を抱きしめていた。  たくさんの美しい笑顔が画面の中に溢れていた。 「失った機能を回復するための移植技術は、めざましい進歩を遂げてきました。手術用ロボットやクローンの普及など、周辺技術の発達がそれらを支えています」  アンドロイドの『先生』は、最後にいつもの言葉で『授業』を締めくくった。 「人の役に立つことは、とても幸せなことです」
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