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syuka
「福本さん福本さん」
「はい?」
「これなんだけど」
隣のクラスだということはかろうじて知っているが、名前までは知らない女の子が私を呼び止めて、おずおずと差し出したものは何やら可愛らしい薄ピンク色の封筒だった。
「こうきくんに渡して欲しいの」
「……私でいいの?」
俗に言うラブレターと言うものを私は書いたこともなければ渡したこともない。だけどそれでももし渡すならば他人に渡してもらうより直接自分で渡した方がいいのではないかと思った。
「うん。福本さんに渡して欲しいの」
「分かった。渡しておきます」
「ありがとう」
嬉しそうに顔を綻ばせる彼女に会釈をして踵を返す。こうきとはつい先程すれ違ったばかりだ。まだいるかな?と考えながら手紙を右手に持ち、歩く。
「……」
廊下の角を曲った先にこうきはいたけど、見た感じ先輩っぽい人と話してるみたいで、声を掛けるのは躊躇われた。
角に立ち、こうきが歩いてくるのをひたすらに待つ。
「!?ビビった……何してんのお前」
「こうきを待ってた」
「こえーよ」
「これ」
「あー、また?」
そう。こうき宛のラブレターを私が託されるのは日常茶飯事だった。中学に上がってから、もう何人もの女の子の為、何度もこの役目を果たした。
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