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その時、私は世界と切り離されたような孤独を感じていた。置いてけぼりにされた様な寂しさと、恐怖。どうして私だけ?という疑問。
「おとう、さん」
喉の奥で絞り出した声は震え、頼りなく冷えた空気を振動させた。薄暗い闇の中、体諸共飲み込まれていきそうな感覚に恐ろしくなる。
殴られた頬も鼻もじんじんと痛く、生温かいものがポタポタと鼻の穴から垂れては落ちる。口の中は鉄の味がして、血が出ていることが分かった。
突き飛ばされ、踏みつけられ、押さえつけられ、蹴り飛ばされる。いつものように助けてくれる母が今日はいない。看護師をしている母は、今日に限って夜勤だった。
「死ね」
どうしてそんな事を言うの?幾度も頭の中で投げ掛けた疑問を、また今日も馬鹿みたいに浮かべてしまう。どうして愛してくれないの?どうして大切にしてくれないの?お父さん。
友達のお父さんは、凄く優しいんだよ。休みの日にドライブに連れてってくれたり、遊園地に連れてってくれたりするんだよ。私もお父さんとお出かけしたいよ。なのにどうして。
「おと、さ」
「触るな」
窓の外の月の光が、いやに綺麗だった。
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