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何かに追い立てられたわたしの足音が、古い廊下に鳴り響く。
一目散に下り階段を目指す横目で、三階へ続く上り階段をチラ見する。
結界に張られたロープに、ぶら下がっている立入禁止のプレート。
そこを越えて行ける若者達は、この場所の関係者であって、卒業生なんだろうか。
いや、わたしには関係ない。
わたしはもう、そういう世界からは隔離された存在なんだから──
「おおっ、ちょっ、これすごくね?
マジ、プロなみじゃん!」
「あっ、ダメだよ尾関くん、そっちはまだラフ画で、線入れとかしてないから……」
「ええーっ、なになにあたしにも見してぇー!
わぁーっ、うそ、これって芙美子が描いたの!?」
「あーん、もう真里まで!
ダメだってばぁー!」
わたしには関係ない。
関係ないのに……関係ないって言ってるのに……
どうして……足が止まって、動かないんだろう……
振り向いて見上げた上り階段は、小窓から射し込む陽射しが、踊り場に柔らかな光の帯を作っていた。
ついこの間まで、わたしも加わっていたはずの賑やかな談笑が、すぐそばにあった。
あの和やかな日だまりの中には、確かに自分自身の存在意義があった。
あれだけ固まっていた足が勝手に動き、体が回れ右をしてしまう。
行っちゃダメだとわかっているのに、無性に心が吸い寄せられていく。
ちょっとだけ、覗いて見るくらいなら大丈夫だろうか。
そんなことを考えながら、音をたてないよう、慎重に踏みしめていく一段、一段。
ついに上りきり、おそるおそる顔を出した壁の先には──
“学校”があった。
ニ階の資料館も学校の装いをふんだんに残していたけれど、三階は改装も何もされてない、まさにそのものの学校。
色褪せた廊下には、当時のままの掲示板があったし、教室には使い込まれた黒板があり、その隣には時間割り表も貼ってある。
それら全てが、カーテン越しの光の中でセピア色に浮かび上がり、わたしは息を飲んで立ち尽くしていた。
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