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一番奥の教室から、楽しげなはしゃぎ声がはっきり聞こえていて、それが自分のいたクラスの空気とシンクロしていく。
どんな子達がいるんだろう?
なんの話しで盛り上がってるんだろう?
間違えたふりして、ちゃっかり行ってみようか?
わたしは部外者だろうけど……だからこそ、あのクラスよりはマシかもしれない。
不安と期待が入り乱れ、二の足を踏む。
そうだ。わたしは、前に進めない。
みんなの冷たい視線。胸を切り裂くようなLINEの文面。教室の隅に取り残された孤独。
教室の物音は、同時にそんな苦痛も蘇らせてゆき、わたしはそっと息を落とした。
そのまま諦めて帰るつもりだった。
だけど後ろを向いた瞬間、たちまちのうちに凍りつき、言葉を失ったわたしに、真後ろにいた男性は、優しげな目を細めて見せた。
「やあ、こんにちは。
きみは……転入生かい?」
二十代の後半くらいだろうか。男性はスラリとした体型をワイシャツに包み、ネクタイをしている。ふんわりしたナチュラルショートの長めの前髪を真ん中から分けており、名前は忘れたが朝ドラに出ていた俳優に似た、整った顔立ちをしていた。
「い、いえ……あの、わたしは違います。間違えて……」
「間違ってなんかいないよ。ここにいるってことは、きみも僕のクラスの生徒だよ」
「え……わたしも?
ど、どういうことですか?」
何がなんだか状況が掴めず、あたふたするばかりのわたしに、男性は落ち着いた口調で言った。
「僕はここのクラスの担任の、高原といいます。もっとも生徒達からは、下の名前でシュウちゃんて呼ばれてるけどね。
まったく、最近の学生は先生に対する尊敬の念がないなぁ。
はははっ、まあ、そのほうが僕も気楽でいいんだけどね」
「クラス?
この廃校に、本当に教室があるんですか?」
「そうだよ。
僕のクラスは、行き場を失った生徒達の……まあ、なんて言うか特殊学級みたいなものさ。
どこの誰でも大歓迎。もちろんきみもね」
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