第1話 〜セピア色の教室〜

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. 次にわたしに顔を上げさせたのは、驚くくらいに湧き上がった、歓声の渦だった。 「よろしくねぇー眞奈ちゃん!」 「転校生なんて、ずいぶん久しぶりだなぁ!」 「わかんない事あったら、何でも俺に聞いてくれよっ!」 「あー、尾関ってば、狙ってんでしょー!」 「ばっ、馬鹿言ってんじゃねぇよっ! 確かに……ちょっとカワイイけど……」  わたしに向けられていた顔は、どれもこれもみんな笑顔だった。  呆気にとられて佇んでいると、横から肩を叩いてきた先生は、やっぱりみんなと同じ笑顔で──  黒板には、わたしの名前が──  わたしの存在の証が、くっきりと白い色で映えていたんだ。 「ようこそ、西條眞奈さん。 今日からここがきみのクラスで、きみの居場所だよ」  そう言って微笑む先生の顔が、みるみるうちに涙で滲んでいった。  こんなことって、本当にあるんだろうか?  高原先生は、“居場所を失った生徒達の集まる場所”と言っていたから、たぶんわたしみたいな不登校児や問題を抱えた子達を、専門的に扱っている所なんだろう。  なんであれ、温かく迎え入れてくれるみんなの姿勢は、少しずつわたしの緊張を解していき、気づいた頃には自分の口元も綻んでいた。  わたしを取り囲んだクラスメイト達が、口々に説明してくれた事をまとめると、みんなわたしと同じく現在高校三年生らしい。  今は夏休み中で、卒業制作の作品を作るために、こうして集まっているとか。 「ジオラマ?」  聞き馴れないその単語を聞き返すわたしに、ひときわ賑やかな男子が教えてくれた。 「よくプラモデルなんかで作られる情景模型ってとこかな。俺達はこの教室を、そっくりそのまんま模型にして、ここに展示するんだよ」  ツインテールの女子が、そこに口を挟む。 「違うってば尾関。そっくりそのままじゃなくって、その模型の教室にいるあたし達は、未来のあたし達なの。 もちろんあたしは、カワイイ衣装を着たアイドルグループの一員だけどね。 何十年後からの未来に、もう一度みんなでこの場所に集まってるって設定だよ」  みんな楽しそうで、仲が良さそうで、こんなに心地よい感じがしたのはいつ以来だろうか。  そのジオラマ世界の中に、わたしの模型も加われるとわかった瞬間、心の底からこみ上げてくる嬉しさに胸が震えた。  ここは……わたしが、居ていい場所?  わたしが、加わっていい世界?  窓に広がる夏空が、フィルターでも剥がしたみたいに、なぜか急に鮮やかに見えた。 .
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