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次にわたしに顔を上げさせたのは、驚くくらいに湧き上がった、歓声の渦だった。
「よろしくねぇー眞奈ちゃん!」
「転校生なんて、ずいぶん久しぶりだなぁ!」
「わかんない事あったら、何でも俺に聞いてくれよっ!」
「あー、尾関ってば、狙ってんでしょー!」
「ばっ、馬鹿言ってんじゃねぇよっ!
確かに……ちょっとカワイイけど……」
わたしに向けられていた顔は、どれもこれもみんな笑顔だった。
呆気にとられて佇んでいると、横から肩を叩いてきた先生は、やっぱりみんなと同じ笑顔で──
黒板には、わたしの名前が──
わたしの存在の証が、くっきりと白い色で映えていたんだ。
「ようこそ、西條眞奈さん。
今日からここがきみのクラスで、きみの居場所だよ」
そう言って微笑む先生の顔が、みるみるうちに涙で滲んでいった。
こんなことって、本当にあるんだろうか?
高原先生は、“居場所を失った生徒達の集まる場所”と言っていたから、たぶんわたしみたいな不登校児や問題を抱えた子達を、専門的に扱っている所なんだろう。
なんであれ、温かく迎え入れてくれるみんなの姿勢は、少しずつわたしの緊張を解していき、気づいた頃には自分の口元も綻んでいた。
わたしを取り囲んだクラスメイト達が、口々に説明してくれた事をまとめると、みんなわたしと同じく現在高校三年生らしい。
今は夏休み中で、卒業制作の作品を作るために、こうして集まっているとか。
「ジオラマ?」
聞き馴れないその単語を聞き返すわたしに、ひときわ賑やかな男子が教えてくれた。
「よくプラモデルなんかで作られる情景模型ってとこかな。俺達はこの教室を、そっくりそのまんま模型にして、ここに展示するんだよ」
ツインテールの女子が、そこに口を挟む。
「違うってば尾関。そっくりそのままじゃなくって、その模型の教室にいるあたし達は、未来のあたし達なの。
もちろんあたしは、カワイイ衣装を着たアイドルグループの一員だけどね。
何十年後からの未来に、もう一度みんなでこの場所に集まってるって設定だよ」
みんな楽しそうで、仲が良さそうで、こんなに心地よい感じがしたのはいつ以来だろうか。
そのジオラマ世界の中に、わたしの模型も加われるとわかった瞬間、心の底からこみ上げてくる嬉しさに胸が震えた。
ここは……わたしが、居ていい場所?
わたしが、加わっていい世界?
窓に広がる夏空が、フィルターでも剥がしたみたいに、なぜか急に鮮やかに見えた。
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