〜プロローグ〜

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.  わたしの地元とは違って、まばらにしかない外灯の上には、月が鋭い弓張り型を際立させていた。  夏とは言え、この時間の風はいくらか涼しく、仄かな夏草の香りもどこか心地良く感じる。  やっぱりわたしは、深夜が落ち着く。  みんなが活動している日中は、自分が酷く価値のないものに思えて、息をするのも苦しくなってくるから。  いかにも青春色な夏空が、その残酷な眩しさで、わたしの影を濃く浮き彫りにしてくるから。  お婆ちゃんの家からコンビニまでは、徒歩だとけっこう時間がかかるけど、日頃部屋に籠もりきりのわたしにとっては、その距離がまたちょうど良い散歩だった。  田舎町の県道は、通る車も滅多になく、わたしの後ろめたさを闇の中に隠してくれるよう。いっそのこと、わたしの全てを消し去ってくれたらいいのに、静寂の中の足音が、やたらと存在を主張してくる。  やがて寝静まった家屋群の角で、ひとつだけ煌々と明かりを灯すコンビニエンスストアが見えた。  不審者みたいにそっと塀の陰から覗く駐車場には、奥に店員のものらしい車が一台ばかり。  それで何となく安心して、再び店に歩き始めた自分を、改めて惨めな生き物だと思う。  どうしてこうなっちゃったんだろう。  コンビニなんて何ヶ月か前までは、学校帰りに普通に立ち寄ってた場所なのに。  英語と数学は苦手だけれど、授業だって嫌いじゃなかったし、テニス部の練習だって、それなりに燃えてはいたし。  友達とだって、仲良くつきあってたはずなのに──  “友達”というワードが頭を過ぎった瞬間、華蓮(かれん)の憎々し気に睨みつける顔が、また胸に突き刺さった。  コンビニの入口に群がる羽虫と一緒に華蓮(かれん)の残像も振り払いながら、わたしは店内に入った。 .
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