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それから少しの間、わたしと芙美子ちゃんは、二人きりで他愛もない会話を交わした。
彼女は見た目どうりとても温厚な性格らしくて、わたしが心を許すのもそんなに時間がかからなかった。
芙美子ちゃんが好きだと言う少女漫画は、わたしが産まれるより前に連載されてたものだけど、たまたまお母さんも愛読していたから、読んだことがある。
その作品に出てくる登場人物の中で、誰が好きだとか嫌いだとか、作中に出てくる犬が可愛かっただとか、ラーメンを食べるシーンから飛躍して、お互い何味のラーメンが好きだとか……
初めこそ遠慮しがちだった芙美子ちゃんも、話しが盛り上がるうちに、だんだんと饒舌になっていって。
時間を忘れるくらい同級生とおしゃべりするなんて、いったいいつ以来だろうか。彼女と仲良くなれそうな予感は、いつしか確信に変わっていったんだ。
「ねえ芙美子ちゃん、それにしてもみんな遅いね」
「夏休みだからね、みんなはまだ来ないよ。きっとのんびりしてるんじゃないかな」
「芙美子ちゃんは、早いんだね?」
「うん、だってこのデザインが描きあがらないことには、模型の成形作業に進まないんだもん。今はわたしが一番頑張らなくっちゃいけない時なんだ」
「あ、ご、ごめん、わたしの未来像、なるべく早く考えるね!」
「ううん、自分の未来だもん。焦らないでゆっくり考えたらいいよ。西條さんの思い描く未来がどんなものでも、わたしは必ず応援するからね」
芙美子ちゃんのふっくらしたほっぺを見つめながら、自分の部屋にあるふわふわの丸いクッションを思い出す。
どんなに疲れていても、嫌なことがあっても、わたしを柔らかく受け入れてくれるクョション。そんなイメージを持った、根っからのいい子なんだと思う。
話題がひとくくりした教室の窓に、ゆっくりと雲が流れていた。
すっかり打ち解け合った沈黙は、いつの間にかぎこちなさも消え失せ、わたしはほとんど無意識のうちに、自分でも予期していなかった事を口にしていた。
「あのね、わたしね……地元の学校でいじめにあってたんだ。
大好きだったはずの学校が、突然苦しくなっちゃって……そしたら世界の全てが、急に自分の敵に回ったみたいに思えて。
今は、不登校中なんだ」
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