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テニス部の三島くんと噂になったのは、三年生に進級して間もなくの事だった。
たまたま帰り道が同じで、たまたま二人とも通学路にある露店のたい焼きが好きで、それでたまたま一緒に公園のベンチで食べた──つもりでいた。
思春期にありがちな誤解として笑って流すつもりだったのに、あろうことか本当に三島くんはわたしに気があるらしく、たい焼き屋の件も偶然を装った待ち伏せだったらしい。
もちろん華蓮の気持ちを知っているわたしは、必死に弁明したんだけど、それでも彼女には、三島くんに好意を持たれているいう事実が許せなかったらしい。
仲良しだと思っていたグループは、途端にわたしを虐げる集団に変貌した。
知らないうちに蔓延しているわたしの誹謗中傷や身に覚えのない噂は、クラス内だけに留まらず、学年中に拡散していった。
中にはその出どころを知っている子もいたけれど、みんなの中心になっている華蓮には逆らえず、学校はやがて少しずつ、わたしの居場所を奪っていった。
「あーあ、スクールカーストって面倒くさいよねぇ」
あまり重くなりすぎないように、無理して笑ってそう言ったけど、黙って聞いていた芙美子ちゃんの眼差しは真剣そのものだった。
「西條さん、辛いことがあったんだね。
幸いこのクラスは田舎のせいか、みんなおおらかで、仲が良いと思うよ。
もちろん中には癖の強い子だっているけど、それでも西條さんを爪弾きになんてしないよ。
もちろんわたしも、西條さんの味方。だって、かけがえのないクラスメイトで、友達だもん」
長い間止めていた息を、ようやく思い切り吐き出せたような、そんな心地がした。未来へと怯えていた脚を、やっと一歩だけ前へ踏み出せたような気がした。
「ありがとう芙美子ちゃん。
ねぇ、友達なんだからさ、わたしのこと名字じゃなくて、下の名前で呼んでよ。わたしは眞奈って言うんだよ」
「うん……ま……眞奈ちゃん?」
恥ずかしそうに呼んでくれた芙美子ちゃんが心から愛おしくて、わたしも友達として何か彼女の力になりたいと思った。
だけどあいにくわたしは絵が描けないし、その仕事を手伝ってあげることもできない。
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