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何かないかと考えたところ、ある事を思い出して、わたしの声のトーンが上がった。
「ねぇ芙美子ちゃん、下のお店で一緒にアイス食べない?」
「アイス?」
「うん、みんなはまだ来ないみたいだし、わたしおばあちゃんから多目にお小遣いもらったからさ、好きなの奢ってあげるよ」
「え、でも……悪いよ」
「いいの、いいの!
友達になった記念にアイスで乾杯しようよ。それともアイス嫌い?」
「……大好き」
その言葉を聞き終えるや否や、わたしは芙美子ちゃんと腕を組む形で椅子から立ち上がらせる。
申し訳なさそうにしていた芙美子ちゃんも、廊下に連れ出されるうちに自然と顔が綻んでいた。
「わたしはバリバリくんのソーダ味が好き!
芙美子ちゃんは?」
「わたしは断然……ビッグコーンのパイン味っ!」
「えー、ビッグコーンにパイン味なんてあったっけ?」
「あるよー、最近新発売されたんだよー!」
「そうなんだぁ、みんなが来ないうちに早く行こう!」
芙美子ちゃんの温もりと仄かなシャンプーの香りにひたりながら、二人で腕を組み、キャッキャと向かう階段。
再び出来た新しい友達に、わたしはすっかり舞い上がっていた。
小窓が陽だまりをつくる踊り場へ、階段を数歩下りた時だった。
ふと、体に触れていた芙美子ちゃんの感触が突然なくなり、わたしは足を止めた。
「あれ、芙美…………え?」
振り向いた先には、三階の廊下の窓が夏空を映しており、年季の入った天井には非常灯がポツリと見えた。
だけど、ただ、それだけだった。
肝心の芙美子ちゃんの姿が、どこにもなかった。
何か忘れ物でもして、教室へ戻ったんだろうか──そう思って急いで三階の廊下を覗いてみたけど、やっぱり彼女の姿は見えない。
「ふ……芙美子ちゃん?」
混乱する頭で必死に状況を整理しようとするけど、知識や経験をひっくり返したって結論にたどりつけない。
間違いなく、彼女はわたしと腕を組んでここまで来たんだ。芙美子ちゃんの柔らかい感触の余韻が、まだわたしの体に残っているんだ。
それなのに、これじゃあまるで──
──芙美子ちゃんが──
──消えた?──
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