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「芙美子ちゃんが……芙美子ちゃんが突然消えたんです……
それにみんなが……突然現れて……」
自分でもわけのわからない事を言ってるのは自覚していたけど、おばさんは、全てを見透したみたいに黙って頷いて聞いてくれていた。
興奮に乱れる息でなんとか事の一部始終を語り終えると、彼女は改まるように姿勢を正して、静かに口を開いた。
「もう、三階へは行っちゃだめだよ?
あそこは、あなたが居るべき場所じゃない」
「あの人達は……幽霊なんですか?」
「幽霊とは少し違うけど、まあ、生霊の類なのかもしれないね。
最も輝けた時代に帰りたいと切望する、かつての生徒達の念が具現化したもの。人生に絶望した大人達が、学校へ置き去りにしてきた若き日の希望……そんなとこかな」
おばさんの説明は、ますますもって理解不能なものだった。
今が充実していない大人達が、あの頃は良かった、もう一度あの頃に返りたいと青春時代を懐かしむ事は、よくあるだろう。
だけど、そんな気持ちが実際に形を成してクラスを形成するなんて、現実にあるはずがないじゃないか。
あるはずがないのに──それでもわたしには、今さっき目にした現象の科学的根拠を示すことが出来ないでいる。
「まさか、生身の女子高生であるあなたが、実体のない念だけの彼らと交わることが出来るなんて。これまで前例がなかったから、わたしだって驚いたよ」
「おばさん、あの子達はつまり……実体は今は大人として生きているって事なんですか?」
「そうね……生きている、と言うか、息をして生存してるだけみたいな状態だけど、死んでるわけではないかな。
みんな今は生きる気力を失っているからこそ、過去の自分に強い未練を持ってるんだろうね」
「そんな非現実なこと、信じられるわけないです」
「この土地はね、昔から度々こういう事があるのよ。ニ階の資料館は、ちゃんと見た?」
「いえ……軽く目に流したくらいで」
「この土地の伝承を紹介してるコーナーに少し記述があるんだけどね、どうも昔から祀ってある地域特有の神様が、そういう事をしでかすみたい。
わたしも昔、興味本位で詳しく調べてた時期があるんだけどね」
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