第2話 〜過去に追いすがる者達〜

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.  おばさんは、改めて自分の名前を芳乃(よしの)と名乗り、不可解な現象について説明を付け足していった。  つまり、あのクラスの生徒達は、人生に絶望する大人達が作り出した“念”だけの幻だということ。  存在できるのは学校の様相をそのまま残した三階フロアのみで、それ以外では消えてしまうということ。  実体であるわたしが彼らと交流することは、何がおきるか芳乃さんも予想がつかず、最悪取り込まれて戻れなくなってしまう危険があること。  怖いと思いつつも、取り込まれて戻れなくなる、というフレーズに、わたしの中で葛藤があったのは事実だった。    戻るって、どこに戻るんだろう?  最初からわたしには、戻れる場所なんてどこにもないんだから。  芙美子ちゃんは、優しかった。わたしを受け入れてくれて、本当に嬉しくて、やっと自分の居場所を見つけられた気がしたのに。  それならわたしは、これから先、どこにいればいいのか。そんな気持ちを素直に芳乃さんに投げかけた時、彼女の語気が僅かに強まった気がした。 「あの教室のことは、もう忘れなさい。現実の芙美子ちゃんはすでに心が壊れてしまっている。あの教室に残るのは彼女の逃避した思い出だけ。これ以上関わってると、あなたも前に進めなくなってしまうよ」 「芳乃さん、芙美子ちゃんを知ってるの?」 「ええ、織部芙美子(おりべふみこ)なら、今でもこの町の実家にいるわ。 四十代後半で独身の引きこもり。統合失調症に過食症を併発して、夜な夜なコンビニの残り物を買い漁ってる」  芳乃さんのその言葉を聞いた瞬間、わたしの脳裏にある姿がよぎり、思わず目を見開いていた。  まさか、そんなはずはないと自分に言い聞かせながらも、聞き返さずにはいられないものがあった。 「芳乃さん、そのコンビニってもしかして……笹野郵便局の隣の、ライクマート?」  耳を塞ぎたかったその答えが、淡い灯火を無惨に踏みにじっていく。 「そうだけど。 あれ、あなた織部芙美子を知っているの?」  わたしは、現実の芙美子ちゃんに会った事がある。初めて会った気がしなかったのも、それで説明がつく。  現実は、わたしが思っていたより、何倍も残酷だった。  まるでそこに、生きる価値なんか見出せなくなるくらいに──   .
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