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やっと踏み出そうとした足を、たちどころに掬われた気分で、わたしは再び部屋にこもるだけの元の生活に戻ってしまっていた。
こうして床に寝そべり、ぼんやりしていると、考え事ばかりしてしまうのは以前と同じ。ただ前と違うのは、その考える内容が自分の事じゃなくて、芙美子ちゃん達の事にシフトしていたこと。
わたしが深夜のコンビニに行った時、文句を言ってきた太ったオバサンは、芙美子ちゃんの成れの果ての姿らしい。
思い出してみれば面影がないこともないけど、だけどあんなに優しくて可愛かった彼女とは、まるで別人みたいじゃないか。
芙美子ちゃんだけじゃない。あの教室にいた美人の女の子も、元気な男の子も、みんな今はあんなふうに人生が壊れてしまっているんだろうか。
どうしようもないやるせなさと、悲しみ。自分もそんなふうになるかもしれないという恐ろしさ。
いろんな感情が頭の中でグルグルと回る中、それでもまだ、あの教室の雑踏に焦がれている自分もいた。
ふと、部屋の扉が静かに開き、おばあちゃんが顔を出した。
「眞奈ちゃん、スイカ切ったからおあがり」
おばあちゃんはお皿に乗せた大きなスイカを差し出しながら、いつもと変わらない柔和な笑顔を見せている。
わたしはそれを受け取りながら、なんとなく聞いてみたんだ。
「ねえ、おばあちゃん。
ここの土地って、たまにおかしな事があるの?
想念が実際に姿形を作ったりとかさ」
「おや、誰から聞いたんだい?
ここは昔からシジャク様の力が働いてるからね。戦時中なんかは戦地へ行ったはずの若者が、幻だけで帰ってきて酒盛りしてたり……
まあ、いろいろと不思議な土地だわね」
「シジャク様って、この土地の神様の事?」
「そうだよ。眞奈ちゃんも小さい頃、一度だけシジャク様のお祭りに行ったことがあるんだけど……まあ、忘れてるだろうね」
記憶をたどれば、たくさんの人達が、大きな炎を取り囲んでいる光景が、うっすらとだけある気がした。
何か異様な怖さを感じていた気もするけど、いかんせんかなり昔の事だから曖昧ではある。
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