2/2
前へ
/12ページ
次へ
「自殺したって噂の生徒さ、俺の兄貴なんだ。もう八年になるんだけど。で、その原因が母さんと父さんが死んだこと。二人とも殺されて死んだ」  月は他人の経験でも語るように淡々と言って見せた。表情にも、歪みはほとんど見えない。  それでも内には、きっと計り知れない重荷を抱えているのだろう。嘆いていた私の人生より、遥かに重い物を。 「三人とも、優しくて良い人たちだったんだ。だから、全部無くして絶望した。それこそ後追いを考えたこともあった。けど、父さんがさ、自殺は悪いことだから絶対駄目って言ってたんだ。罪のない人間を殺すのと一緒だって」  兄貴は背いたけど――そう呟きながら空を仰ぐ。一面の青を邪魔するフェンスが境界線のように見えた。 「なんて、俺が勇気なかった言い訳にしてる部分もあるけど」  出会った日を思い出す。これまでの日々や言動に辻褄が合い、全てを理解した。その上で思う。 「俺の殺したい奴は、家族を奪った奴だ。今は殺すために生きてるようなもんなんだ」    私は彼を救いたい。殺人の選択が消えるように。その手を血で染めずとも、生きていたいと思えるように。  彼がそうしてくれたように。  帰宅後、改めて月の両親の事件を検索したところ、正式に存在していた。疑っていた訳ではないが、俄に信じがたかったのだ。  そこで見た名前により、彼の髪と瞳が親譲りであると知った。  ――翌日、軽やかな足取りで、だが意気込んだ気持ちで階段を登る。今日は、鞄以外の荷物も用意した。 「何それ」  思い通りの反応に微笑み、両手を掲げて見せる。右手に箒、左手に塵取りを持って。 「掃除道具。広い屋上、一人で掃除するの大変でしょ。だから私もやろうと思って。ここは私にとって憩いの場所だし」 「……サンキュ」
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加