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「それで!あそこでコーヒーを飲んでるおじさんが弁護士さん!」
“足立原 崇央”
64歳。弁護士。
少し太り気味。いいおじさん。
鼻の下にちょびひげ。
「元々館の主の出雲路さんと親交がある弁護士さんらしいですよ。今回は財産を譲る手続きに必要かもだから呼ばれたそうです」
やや太ったその中年の男はグレーのスーツに身を包んで、その体とは対照的な細長い指をしていて、左手に新聞を持ちながらコーヒーをすすっている。
江流久は遺産相続についてのあの動画を眉唾ものだと考えていたのだが、弁護士を呼ぶあたりどうやら本気らしい。
「それでさっきのメイドさんが小野田さん」
“小野田 優里絵”
23歳。メイドさん。超かわいい
元々化粧品メーカーの仕事をしていた。
巨乳!
「スリーサイズは…」
「聞いたのかよ!?」
「聞くわけないでしょ。むっつり探偵さん」
寧衣良との付き合いは早いものでもう2年になるが、時間が経つにつれて江流久への態度はどんどん横柄になってきているようだった。
「それで、あちらの2人はご夫婦です」
“森坂 悠椰”
29歳。輸入家具屋経営。イケメンだけど感じ悪い。
無口。
バーカウンターで勝手にカクテル作ってた。
“森坂 景都”
28歳。森坂さんの奥さん。超美人。
専業主婦。だんなと違っていい人!
パソコンの使いすぎで右手腱鞘炎。
「奥さんの景都さんはバーカウンターから私にジュースを持ってきてくれてすごくいい人でした。あ!景都さん、ハンカチ飛ばされちゃった。風強いですからね、私も気をつけないと」
白いレースのハンカチは風に飛ばされて空と海の青色以外に何もない空に消えていった。
そう言えば空港を出てから何も口にしておらず喉が渇いている。
「しっかり餌付けされてるな。それで、俺の分は?」
「あちらがバーカウンターになります」
寧衣良が船室のドアを指差したところで、目の前に島が現れた。
「あ!島!結構大きい島ですね!あれが手に入るなんて夢みたい!」
早くも寧衣良は暗号を解いた気になっている。
船着場からだいぶ離れ他に島は一切見えない。
この島の周囲だけ陰鬱な空気が流れているように見えるのは、口渇感から来るものなのかもしれない。
「あれが、楽聖島か……」
江流久は照りつける日差しを右手で遮りながら、潮騒にかき消されそうなほど小さな声で呟いた。
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