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8
目の前には陶然たる見事な薔薇園が広がっていた。
夏の日差しを浴びて、薔薇の甘い香りが立ち込めている。
まるで迷路のように入り組んだイングリッシュガーデンはラプソディー・イン・ブルー、プリンセス・オブ・ウェールズ、アイズ・フォー・ユーを始め様々な品種の薔薇が咲き乱れている。
実際には咲き乱れたという表現は適切でなく、整然と管理されたその花園はどこか人工的だったが、薔薇の持つ美しさが見るものを魅了した。
「わー!綺麗ーー!」
息一つ切らすことなく、寧衣良が叫ぶ。
薔薇園の向こうには微かに洋館が見えている。
「この薔薇園は出雲路様がご自身で手入れをされていたものになります。今は屋敷の使用人である多田熊が管理しております」
まるで迷路の様に様々に分かれる小道を歩きながら、小野田が先頭に立ち説明している。
江流久に一瞬湧き上がった違和感は解決される間も無く小野田は先へと進んでいく。
出雲路自慢のこの庭園はまさに薔薇の迷宮と言うにふさわしく、一度中に入ってしまえば薔薇の壁に阻まれて周りの様子など分からなくなってしまいそうな程だった。
「薔薇なんかどうでもいいから、早く屋敷に連れてってくれよ」
「あら?この薔薇園まで手に入るかもと思ったら、じっくりと見ておきたくなりません?」
坂道での疲れかやや顔色の悪い牧乃瀬をからかうように嵯峨野が笑いかけている。
「わ!この赤い薔薇綺麗ーー!」
寧衣良は大輪の紅い薔薇を見て立ち止まると、ジャラジャラとストラップのついたスマートフォンで様々な角度から写真を撮影し出した。
「えー!?この島電波無ーい!明日架に写真送ろうと思ったのにー」
そんなことで嘆くのかと江流久は不思議に思ったが、現役女子高生にしてみればスマートフォンが使えないというのは死活問題だ。
そう思いながら、江流久はガラパゴス携帯で薔薇の写真を1枚撮った。
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