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「江流久さん、いつもその飴舐めてますけど、その内糖尿病になりますよ。電子マカロンにしたらどうですか?」  フェリー乗り場へ向かう間、足摺岬を過ぎたところで突然寧衣良が意味不明なことを口にする。 「………今なんて言った?電子マカロン?」 「そう電子マカロン!砂糖って麻薬とかニコチンとかと一緒で中毒物質みたいですよ。うちの高校のゴルディロックスクラブの部長が言ってました」 「何なんだよその怪しげなクラブは…」 「あ、部長は明日に架ける橋の明日架って言うんですけどね、それで、私が電子マカロンを作ったら売れるんじゃないかって言ったら明日架と盛り上がっちゃって。ダイエットにも良さそうだし、なによりいつも口にマカロンを咥えてるってかなり女子力高くないですか?」  Simon & Garfunkelかと横槍を入れたくなるのをかろうじて堪える。  江流久は時々寧衣良が稀代の天才か世紀の馬鹿か、はたまたそのどちらともなのかと本気で考えることがある。  神聖な脳細胞をこんなことに使っている場合ではないのに。 「……で、それいつできそうなの?」 「え?できるわけないじゃないですか、何言ってるんですか江流久さん。あ!ほら!フェリー乗り場見えてきましたよ!海綺麗ーー!」  寧衣良のせいで貴重な脳の容量が一つ、「電子マカロン」なんていう何の役にも立たなそうな単語で占められてしまった。  腹立たしいことに忘れようと思ってもその単語のもつ破壊力は凄まじく二度と忘れられそうにない。  寧衣良とのくだらないやりとりをしていたら、気が付けばもう目的地周辺でナビの案内が終了した。  目の前には透明度の高い海が広がり、少しの濁りもないその水質のせいでエメラルドグリーンの空に船が浮いているように見える。  
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