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 エンジン音と波の音だけが響く中、フェリーの中では数人の乗客が椅子に座ったり、海を眺めたりしていた。 「こんにっちはー!私たちも暗号解きにきました!恋澄 寧衣良です!高校3年生です!こっちは私の師匠の江流久さん!彼女募集中のむっつりです!」  潮騒に負けないよう、寧衣良が大声で挨拶をする。  初対面の人間との距離を一瞬でゼロにするのは寧衣良の才能かもしれないが、そう毎度うまくいくものでもない。  2人を一瞥したきり、一同はテンションを合わせることもなく、苦笑いをしているものさえいる。 「……どうやらみんなで仲良く謎解きって空気でもないみたいだな」 「えーそんなのつまんなーい、せっかくだから仲良くしたかったのに…」  寧衣良は頬を膨らませながら周囲を観察している。  懲りもせず、どうやら話しかけやすそうな人間を選んでいるらしい。 「こんにちは。お二人は、恋人同士?」  赤い派手なネイルをした長身の女が不満そうな寧衣良に話しかける。 「違います。俺がこんなのと付き合うわけないでしょう」  江流久は挨拶もせずにまず関係性を否定する。  女に声をかけられた瞬間寧衣良の表情は綻んだのだが、江流久の言葉で機嫌が悪くなった。 「…そうですよ、こんなむっつり。私は前途ある女子高生ですから!」  悪態をつく寧衣良を見て、女はきめ細やかな肌をした指でよく手入れされた長い髪をかき上げてクスクスと笑う。 「それは失礼したわね。私は嵯峨野 夢夏(さがの ゆめか)。神戸で楽器店を経営してるわ。宜しくね」  20代半ばといったところだろうか、立ち居振る舞いも経営者らしく人当たりよく、その身なりも不快感を感じさせない。  白いジャケットに黒のワンピースとモノトーンでまとめた姿は、透明度の高い海を背景により強調されていた。
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