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「・・・・、
恐れ入ります、」
おずおずと椅子に
腰掛けると、
雪彦さんは私と
向かい合わせになる
ように座った。
店内はとてもいい
雰囲気ね。
暖かさを感じる
黄色味がかった明かりに、
しっとりと流れる
レコード。
ヴィンテージな調度品と、
仄かに香る珈琲。
着物姿にエプロンを
つけたお給仕さんが
とても可愛いわ。
「とわ子さん、
何を頼まれますか?」
雪彦さんは私の方に
メニューを向けてきた。
私はもう決まってるの!
「私、レモネードに
するわっ。」
「ふふ、とわ子さん、
珈琲飲めませんもんね。」
むっ。
私は少し口を尖らせた。
たしかに、ここの喫茶店の
入口にある看板には、
『珈琲有リマス』って
書いてあって、
珈琲を売りにしてる
感じはあったけれど、
いいのっ、
私はレモネードなのっ!!
雪彦さんはお給仕さんを
呼んで、レモネードと、
それから珈琲を頼んだ。
「・・・イチョウが
色づいてきましたね、
雪彦さん。」
飲み物を待ちながら、
他愛も無い話をする。
雪彦さんは静かに頷いた。
「そうですね。
去年は銀杏拾いを
しましたが、
今年もしますか?」
「もちろんするわ!
雪彦さんはちゃんと暖かく
していらっしゃってね、
じゃないとすぐ
風邪を引くんだからっ。」
私がクスクスしながら
いうと、雪彦さんは
眉尻を下げて笑った。
「もう昔みたいに
簡単に風邪を引いたり
しませんよ。
これでも体が
強くなりましたから。」
「でも兄上から、
この間、雪彦さんが
風邪をお召しになってた
って聞いたわ。」
「ちょっと咳が出てた
だけです。
すぐに治りましたよ。」
ここで、テーブルに
運ばれてきた珈琲と
レモネード。
私はさっそく一口。
「んっ、美味しい!」
「それは良かった。」
雪彦さんは、
添えてある砂糖や
ミルクは入れずに、
静かにカップに
口をつけた。
その所作が、
なんだかとても
滑らかで、
品があって、綺麗。
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