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この日から、私は
やたらに雪彦さんを
意識してしまった。
雪彦さんはいたって
普通に、毎朝兄上を
迎えに来て、
ちょうど家から出る私に、
「おはようございます、
とわ子さん。」
って微笑みながら
声をかけてくれるのに。
「っ、ごきげんよう。
行ってきますっ!」
私はといえば、こんな
挨拶しかできないわ。
違うのよ、もっと
ちゃんと話したいのに。
その日も、雪彦さんは
兄上を迎えに、朝、
我が家に来ていた。
私はというと、
ちょっと寝坊してしまって
急いで準備してたの。
深緑の袴に、
桔梗が散らされた着物、
ああ、編上げの
ブーツって履くのが
大変っ。
「行ってまいります!」
遅刻なんてしたら、
口やかましい先生に
「廊下に立ってなさい」
って言われるわ!
私がバタバタ走って
家の門を出ようとすると、
段差でちょっと足を
捻ってバランスを崩して
しまって。
「きゃっ!!」
「とわ子さんっ、」
ふわり、と私の体を
片腕で抱きとめたのは、
門の前で待ってた
雪彦さん。
ぱっと雪彦さんの顔を
見上げると、
雪彦さんはクスッと
笑った。
「おはようございます、
とわ子さん。
お怪我はありませんか?」
!!!!!
ぱっと雪彦さんから離れて、
私は視線がうろうろ。
「だっ、大丈夫です!!
ごめんなさいっ、
急いでるの!!!!」
たしかに、急いでも
いるけど、
だって、
だって、
体を思いっきり
触られたーーーーっっ!!!
殿方とこんなにも
濃厚な接触をするのは
初めてよっ、
嫁入り前なのに
私ったら!!!!!
結婚は先進的な
考え方だけど、
貞操観念はガチガチに
大正乙女な私。
は、
恥ずかしいっ!!!
私は言うだけ言うと
逃げるようにその場を
後にした。
走りながら、
雪彦さんの腕の感覚を
思い出す。
た、
逞しかった・・・!!!
だって、片腕で
私を抱きとめたわ!?
いつのにあんなに
男らしくおなりに
なったの!?
って、急がないと
本当に遅刻しちゃう!!!
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