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「ねぇ、今日は
皆様でアイスクリームを
食べに行きませんこと?」
なんとか遅刻は免れて
その日1日を過ごした私。
学校終わりに友だちが
寄り道を提案してきた。
「アイスクリーム?
良いわねえ。
私、美味しいお店
知ってるわよ。」
私がこういうと、
もう1人の友だちが
すごく悲しそうな顔を
して、
「わたくし、いけないわ。」
といった。
あら、どうしたのかしら。
「どうかなさったの?」
私が訊ねれば、
その子は苦笑い。
「ん・・・・
今日は帰ってから
縁談相手の方と
食事会で・・・・・」
どこか煮え切らない言葉。
というか、この子も
もう縁談がおありなのね。
「そう・・・
お相手の方は
どう言った方なの?」
さらに訊ねると、
その子は荷物を掴んで
無理やり笑顔を作った。
「っ、
うんと年上の方よ。
もう42歳だったかしら。
わたくし、
もう行かなきゃ。
ではごきげんよう。」
逃げるように教室を
飛び出した友だち。
42歳って・・・・
私が首を傾げていると、
アイスクリームを食べに
行こうと誘ってくれた
友だちが耳打ちしてきた。
「あの子、
商家(商人の家)に
お嫁に行くんですって。」
「商家??」
この時代はまだ
“身分”というものが
あったのだけれど、
華族:江戸時代に公家や
大名だった家
士族:華族以外の武士の家
平民:職人、商人、農民など
華族の娘が、
平民の商人に
嫁入り・・・・・
「あの子の家、
お金に相当苦労してる
みたいよ。
それで、家の体裁を
保つために、
富豪の商家に
嫁がされるらしいの。
成り上がりの商人に
してみれば、
華族の娘をもらえれば、
それはステイタスに
なるでしょうし、
あの子の家も
その商家にお金を
援助してもらえるわ。」
友だちはこう言って
肩をすくめた。
つまりは、
娘を差し出す代わりに、
娘の実家にお金を援助
して下さい、
って話なのね。
これは、
没落傾向の華族に
よくある話なの。
「そう・・・・」
「きっと嫁いだら
大変でしょうね。
身分が違う家だなんて
私、絶対に生活に
馴染めないわ。
それに、商人の
お姑さんだなんて、
そんなの怖いに
きまってるじゃない。
いびられるわよ、絶対。」
友だちはやだやだと
苦い顔。
あの子、
家のために、
お金のために、
42歳のおじさんの
元へ1人で嫁いでいくの?
そんなのって、酷い。
娘は家の道具じゃないのに。
男性と同じ、1人の
人間なのに。
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