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「あの、
父上・・・・・・」
夜。
私は父上の書斎に
行った。
「ん、どうした、
とわ子。」
父上はパイプを
くゆらせながら顔を
こちらに向ける。
私はおずおずと
口を開いた。
「あの、
・・・私に縁談の話って、
来てないですか。」
もしかしたら。
もしかしたら、
雪彦さんの縁談相手が
私かもしれない。
だって、年回りも
ちょうど良いし、
身分だって・・・・・
そんな一抹の望みを
かけて、訊いた。
すると、父上は
パイプを口から離して、
呆れたように笑う。
「来てるわけないだろう。
だいたいお前は縁談
なんてもっての他だと
大騒ぎしたじゃないか。
そんな娘を嫁に出したら、
相手の家に迷惑をかけて
しまうだろう?
とわ子は女学校を
卒業するまで
見合いはさせん!!
そのかわり、
卒業までしっかり
華族の娘として教育
し直す!!」
来て、ないの・・・・・
「そうですか。
・・・失礼しました。
お休みなさい。」
私は頭を下げて
父上の部屋を出た。
縁談の話、
来てないのね。
そりゃ、そうよね。
そんなに話がうまく
いくわけないわ。
わかってるわ。
そんなこと。
じゃあやっぱり、
雪彦さんは、
私ではない、他の
誰かとご結婚なさる、と。
っ、
そんなの、いや、
嫌・・・・・・・!!!!
『僕と駆け落ちして
ください。』
雪彦さんと、
駆け落ちすれば、
雪彦さんと、
ずっと一緒に
いられる・・・・?
「あ、とわ子、
今日の雪の話は
なんだったんだ?」
ちょうど、兄上と
すれ違った。
ビクッと揺れる私の体。
兄上は怪訝そうな
顔をする。
「どうした?とわ子。」
「な、んでもないっ、
大した話じゃなくってよ!」
もし、
もし駆け落ちをすれば、
もう、兄上や、父上、
母上、ばあや、
みんなには会えない。
そんな大それたことを
本当にするの?
でもしないと、
雪彦さんが他の方と
結婚しちゃう・・・!!!!
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