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「とわ子お嬢様!!!
おやめ下さいっ、
また自転車なぞに乗って!!
はしたのうございます!!」
朝。
ばあやが口喧しく
注意してくるけど、
そんなの無視無視。
「ばあや、古いわよ!!
今の時代は女性だって
自転車に乗りこなさなきゃ!」
「そんなことおっしゃって
前転けたのはどなたですか!
着物を破かれて、
お父君に叱られたのを
ばあやは忘れてませんよ!」
それはそれ、これはこれ!
私は自転車に跨って
ニヤッと笑った。
「だから乗るんじゃない、
もっと上手になって
転けないように!!!」
「お嬢様ぁ!!!
大怪我でもされたら
どうなさるのですっ!!
嫁入り前の体に
もしキズでも残ったら、」
「ちょっと体に
キズがあるからって
幻滅する人、
こっちからお断りよー!」
「またそんなこと
言って!!!」
いくらいっても
埒があかないわ。
私は自転車を押して
家を飛び出した。
女の幸せは、
家に引きこもって、
ただ夫の帰りを待つ?
で?
その夫といえば、
縁談で初めて見た男で?
鼻息の荒い、
肌が油でツヤツヤ
してる男でも、
ヒョロくていかにも
根暗そうな男でも、
家柄が釣り合うから
この男です!!って
差し出された男と
結婚するの?
しかも結婚した後は
いくら夫に虐げられても
女から離婚なんて
とんでもなくて???
馬鹿じゃないかしら。
女性の社会進出が
謳われるようになっても、
やっぱり昔からの
「当たり前」をひっくり
返すのは至難の業。
未だに根強く残る、
「女は父の勧める相手と
結婚して、嫁として
その家を守る、
それが女の幸せ」
という風潮。
無理無理無理無理、
私はそんなの嫌。
だって、私は
自分の好きな人と
結婚したい。
政略結婚なんて
馬鹿馬鹿しい、
私は自由恋愛主義なの!
「とわ子、
こけるぞ、そんな
乗り方してたら。」
んん。
振り返ると、
黎之助(れいのすけ)
兄上と、
そのお友達の、
正峰 雪彦さん。
(まさみね ゆきひこ)
二人とも帝国大学の
学生で、
黒い角帽とマントを
身に付けてるの。
「兄上、幸彦さん、
おはようございます。
大丈夫よ、転けないわ、
私、試してみたんだけど
片手運転だって出来るのよ。」
「おお、それはすごい、」
兄上がケラケラ笑って、
その隣の雪彦さんは
心配そうな顔をした。
「とわ子さん、
本当に転けますよ、
そんなことしてたら、」
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