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でた。
私はキッと雪彦さんの
方を見た。
出た出た、
雪彦さんの心配性。
「雪彦さん、
心配はご無用よ。
もーーっ、
雪彦さんこそ
もっとちゃんとなさい!
将来有望な帝国大学の
学生さんがそんなに
気弱でどうするのっ、
私、兄上から
ききましたからねっ、
この間、また風邪を
おめしになられたんでしょ?
ちゃんと日頃から
体を鍛えないとっ、」
「と、とわ子さん、
落ち着いて、」
私と、雪彦さんの
関係はこんな感じ。
雪彦さんの方が
年上なんだけど、
昔から体の弱かった
雪彦さんを私は
幼い頃から、あれこれ
世話を焼いてきたの。
私は年下だけど、
雪彦さんの姉君よ。
私の世話のかいもあって、
雪彦さんはすらっとした
高身長の青年になったわ。
ちょっと色白なのが
私は不服だけど、
まあ、それはおいおい。
「俺達も今から
出かけるから一緒に
行こう、とわ子。」
兄上はこう言うと、
自転車に手をかける。
「これは俺が
押していこうか。」
「けっこうよ。
自分のことは自分で
できるわ。」
私は自転車を押しながら
ふふん、と笑った。
編み上げブーツの踵を
コツコツと鳴らして、
堂々と闊歩する私は、
どこからどう見ても
ハイカラ女学生。
海老茶色の袴は
いつもの着物と違って
大股で歩くことが
できるから、とっても
気分が良いわ。
「とわ子さんは
その格好良く似合うね。」
雪彦さんが褒めてきて、
私はますますニッコリ。
「そう?
本当は断髪して
みたいんだけど、
母上がだめって
うるさいの。
髪は女の命なんだから、
嫁入り前の娘が勝手に
切ってはいけません、
って。」
断髪っていうのは、
髪をおかっぱにすること。
断髪で前髪を眉上で綺麗に
切りそろえたらモダンで
可愛いかなって思ったのに。
そういうわけだから、
私の髪は依然として
束髪崩し。
「うーん・・・・、
確かにいきなり
とわ子さんの髪が
短くなったら、
僕は腰を
抜かすかも・・・、」
「まあ、それぐらいで
腰を抜かすなんて、
やっぱり雪彦さんは
鍛錬が足りないわ。
兄上、お相手をして
差し上げて。」
私がピシャリと
こう言うと、
兄上はクスッと笑った。
「雪はもう十分強いよ。」
「どうかしら。」
嫌味ったらしく
こう言うと、
あら、もう女学校に
ついたわ。
「それでは雪彦さん、
ごきげんよう。
兄上もお勉強頑張って。」
「とわ子さんも
あんまりめちゃくちゃ
したらダメですよ。」
「とわ子も勉強、
頑張れよ。」
言われなくたって、
女学校の良妻賢母な
授業くらい、
おちゃこのさいさいよ。
ああ、今日は算術の
授業がなくて残念。
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