3人が本棚に入れています
本棚に追加
10年前
歯を食いしばって眠気に耐えていた。
周囲は雨で煙って視界が悪く、光源もないので昼過ぎだというのにまるで夕闇に飲まれてしまったようだ。
背中や脇腹を伝う水滴や、肌に張り付く衣服の不快感も覚醒を促すにはさほど役に立たず、気付けば頭がゆっくり下がっていく。
固いものに額を打ち付けて痛みで目を覚ます。辺りを見回して変化がないことに安堵し、安心は再び眠気を誘う。
「おい」声と共に後頭部を叩かれ、慌てて顔を上げる。「堂々と寝るな。こっそり寝ろ」
目元に疲労と睡眠不足の深い皺を刻んで、それでも軽やかに隣へ降りてくる。
「で、様子はどうだ?」
声色に苛立ちはないので、さっきの体たらくを咎めはしても怒っていはいないようだ。
「すいません、見ている範囲に異常はありません。そちらは……」そう言って横目で覗うと、長いため息が返ってきた。「……相変わらずですか」
「そもそも連絡がつかないらしい。無線も通信の有線も応答はないから、今、伝令を走らせてるようだが……それも帰って来るのかどうか」
最初のコメントを投稿しよう!