10年前

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 あらゆるものが破壊されていた。天幕、車両、予備の迫撃砲、発電機etc..それから、人。体の部位が広範囲に散らばっていて、あまりに現実感がなかった。血の匂いも雨で流れてしまっているようで、鉄の匂いが僅かに漂ってくるだけだ。  ガサリと、炊事場があったはずの場所で何かが動く。チキチキと機械的な音と共にソレは立ち上がった。金属のような外殻、4本の足、高さは人の倍ほど。敵の平気なのか、それとも敵そのものなのか、味方主力の全滅を見てもパニックに陥らないぐらいに疲れ切っていたのが幸いし、単独で立ち向かうことはせず、見張り位置まで可能な限り音を立てずに戻った。  戻って、思考が一時的に停止した。 「にげ――」  左手を腕なのか触覚なのか判別できないもので掴まれて宙吊りのまま胸を貫かれて、言葉は途切れた。  無線は繋がらない。部隊は全滅。許容量を振り切っていて、いっそ冷静だった。  弾倉の底を下から叩き、初弾を装填し、銃口を向け、安全装置を外し、引き金を1度引く。  バンッという発射音と共に肩で衝撃を受け止め、同時に視線の先のソレの表面で火花が散った。狙いをずらして関節のような場所に向けてもう1発、結果は変わらない。
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