第一章:春の戯れ

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 図書委員の仕事は週に三回。月曜から金曜の朝と放課後から自分の都合に合わせて選ぶ。俺は月曜日の朝と木、金の放課後。朝は基本的に中庭の掃除(図書室から一歩出ればそこはすぐ中庭のため)か、雨の日は図書室の中の掃除。放課後は配架(はいか)――返却された本を元の本棚に戻すことが主。金曜日かつ放課後の今は、配架のついでに本棚の掃除をしている最中というわけだ。  各学年六クラスあるこの学校での図書委員は各クラスから一人ずつ選ばれる。計十八人もいれば当番の日が被ることがある人とほとんど被らない人がいるわけで、今俺の隣で俺と同じ仕事をしている二つ学年が上の先輩は前者に値する人だ。 「間宮くん、上の本棚の掃除お願い」  宮崎(みやざき)楓花(ふうか)先輩の当番の日は水曜日の朝と、木曜日、金曜日の放課後。だから俺とは水曜日以外に顔を合わせている。もちろんそれ以外にも校舎内で顔を合わせることだってたまにある。  宮崎先輩はよく笑う。笑うし、いつも楽しそうだし、一緒にいるとこっちまで楽しくなる。二重瞼、時々一つに束ねている長い髪、制服の隙間からたまに見える白くて細い体。委員会の発足会で初めて顔を合わせた時にはなんとなく「きれいな人だな」と思ったくらいの容姿をしている。  何度か一緒に仕事をして、宮崎先輩のことが少しずつ分かってきた。好きな色は藍色、Uruとヨルシカの音楽がお気に入りで、得意な教科は英語、苦手な教科は数学、兄と妹に挟まれた真ん中っ子で人懐っこく、今年は難しいけれど休みの日には兄妹全員で遊びに行くこともあるとか……。  いろんなことを屈託(くったく)(ためら)躇いもなく話してしまえるくらい、宮崎先輩の中での俺の立ち位置が良いものであることは嬉しい。聞いていて飽きない。その時の弾んだ声や、はにかんだり笑ったり、眉をひそめたり泣きそうになったりする表情は、先輩が、その目に映る全部のことが大好きなんだって、そう思えるから。  委員としての仕事が終わった午後五時を過ぎた頃。俺たちは司書の先生から「お疲れ様」と労われながら帰路に着く。俺は基本、学校への登校は自転車だ。宮崎先輩はいつも歩いて帰っているらしいけど、こんな風に俺と当番が一緒の日は何故か俺についてくる。ついてきて、道の途中で分かれるまで他愛(たわい)もない話を延々と繰り返す。
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