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最初こそ「なんで?」とは思ったけど、別に嫌なわけじゃないから気にしないでいる。
上履きからスニーカーに履き替えたは良いものの、靴紐が解けていた。俺が靴紐を結んでいる間、ローファーを履いて登下校している宮崎先輩は壁に背を預けて待っていた。別に待ってなくて良いのに、とは思うけど、それはそれで寂しい気もするから言わない。その行動の真意はきっと、取り決めていない約束事からくる違和感。
靴ひもを結び終えて立ち上がると、先輩はふっと顔を綻ばせた。下ろした髪が小さく揺れる。まるで中学時代から一緒だった友達みたいだ。
二人で外に出て駐輪場へ歩く。その途中、先輩が訊いてきた。
「間宮くん、ローファー履かないの?」
「なんですか急に」
「しょっちゅう靴紐結び直してるし、ローファーの方がラクじゃないかなって」
「ん~まぁ、一回はローファーにしようかなとは思ったんですけど、家でサイズ確認するのに履いてみたらなんか違和感しかなくて、結局履くの止めたんですよ」
「へ~、一応持ってはいるんだ」
「ほとんど履いてませんけどね」
「分かんないよ? 何かの拍子に急に履きたくなるかもしれないし」
「そういうもんですかね」
「そういうものでしょ」
「宮崎先輩はどうだったんですか?」
「私は……別に違和感なかったなぁ」
「へぇ、そういうもんなんですね」
「そういうもんなんだよ」
そんなことを話しながら、学年ごとに決められている駐輪スペースから自分の自転車を回収し、サドルには跨らず押して歩く。校門の方へ宮崎先輩の歩幅に合わせて歩いていると、向こうから外周を走っている最中であろう運動部員が走ってきた。俺はそいつがクラスメイトだということに気づき、向こうもまた俺だと気づいたようだった。
向こうは部活の最中だろうし、変に声を掛けるのもなぁ……。そう思って何も言わないまますれ違う。それから数秒経った後、
「お幸せにー!」
そんな声が聞こえてきた。
一応断っておくと、俺と宮崎先輩は別にそういう関係じゃない。付き合っているという噂が巷で流れているらしいが、それは全くのデマ。俺と先輩の関係は、そんなに深いものじゃない。先輩と後輩、ただそれだけ。それ以上も以下もない、淡白な関係。
根も葉もない噂なんか、とは思うんだけど、高校生の噂好きな面を鑑みてみると、案外そう思われても不思議じゃないのかもしれない。どっちにしても真実はそれと異なっているけど。
「今の、どういう意味?」
先輩は全く分からないようだった。
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