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先輩が言った「げんまん」というのは、「ゆびきりげんまん」のことだ。クラスのみんな、と先輩は言ったが、それはきっと「自分と仲の良いクラスメイトや友達」という範疇での話だろう。宮崎先輩だって、八方美人なわけじゃない。反りが合う、合わないは絶対にあるものだ。
「あの話、夏目さんが高校生だった時に書いたものをアレンジしたものらしいですよ」
「あ、そうなの?」
先輩からは案外普通の反応が返ってきた。この話は一週間くらい前に本人がツイートしていたものだから本当だ。その作品の売り上げが尋常じゃないことも驚きだが、俺や先輩とたいして年が変わらない時期にあれの前身となるものを書いていたというのだからもっと驚く。
宮崎先輩はツイッターをはじめとしたSNSを一切やっていないと前に本人の口から聞いたので、知らなくても無理はない。
「へぇ~。世の中にはいろんなすごい人がいるもんだね」
「いるもんですね」
二階に着くと、どちらが言い出すでもなく本屋に寄った。入ってすぐは一緒に行動していたけれど、途中で先輩が参考書を見たいと申し出たので別行動をとることにした。俺は新刊の本を適当に取ってあらすじや冒頭を軽く読んでみたり、既刊の本の中に眠っている掘り出し物を探してみたり、思うように店の中を見て回った。
しばらく経ってから先輩の様子を見に行くと、先輩は難しい顔色をしていた。数学の参考書を睨み付けている。
「ん~……」
「先輩? 大丈夫ですか?」
その目は真剣そのものだったけれど、俺が一声かけるだけで「うん?」といつもの軽やかな調子に戻るのだから不思議だ。
「険しい顔してましたけど、大丈夫ですか?」
先輩は苦い表情でかぶりを振った。
「大丈夫じゃないんだよねぇ、これが」
白旗を上げたようなため息をはあっと吐く宮崎先輩。数学は得意不得意が一番はっきりとする科目だろう。俺はどっちつかずといった感じの立ち位置。得意じゃないし、かといってズタボロってわけでもないし。テストを受ければ毎回平均点くらい。
「間宮くんはどっち?」
いきなり聞かれても大事なところが抜けている。と思ったら、その後すぐに「文系か、理系か」と倒置法で意味が通じる聞き方をされた。
「俺は、っていうか、俺も文系でしょうね」
理系に行ったってついていける自信がない。
うちの学校では、二年次に文系クラスか理系クラスかを選ぶことになっている。今後のテストの結果で左右されるだろうが、俺はもっぱら文系一択だろうな。
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