不自由な自由を駆けろ!

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「全国学生写真コンテスト優秀賞、2年3組笹山夏姫(ささやまなつき)、写真部」 夏休み直前の学校朝会で、夏姫は全校生徒の前で表彰された。運動部が強い校風の中、文化部での表彰は稀で充分に誇ってよいことであったが、当の夏姫はそれほど喜んではいなかった。 コンテストの結果発表があったのは二ヶ月も前のこと。夏姫にとってタイムリーな話ではない。応募した人間は全員そうであろうが、夏姫も最優秀賞を狙っていた。 最優秀賞は望遠レンズつきのデジタル一眼レフカメラがもらえるのだ。優秀賞はガクンと落ちて、五千円図書カードのみ。高校生にとって、図書カードも嬉しくなくはないが、一眼レフカメラとの差は歴然だ。 コンテスト入選者の図録で見た、最優秀賞の作品は北海道の風景写真であった。『広大かつ壮大な自然の風景、絵葉書的になりがちな美しい風景を地元の若者ならではの視点から瑞々しくダイナミックに捉えた秀逸の作品』そう選評に書かれていた。作者は北海道在住の夏姫と同じ高二の男の子。神奈川に住んでいる夏姫には撮れない景色、空気感に完敗だと感じてしまった。 夏姫の作品は部活動の汗を題材に、サッカー部、陸上部、バスケ部の友達に撮らせてもらったもので、『等身大の若者を瑞々しく捉えた~』という選評。瑞々しくがよっぽど好きな審査員だなと思ったくらいの、自分の写真に対してありきたりな感想に夏姫はがっかりした。
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